システムトレード 基本と原則
勝てるトレーダーになる「6つの普遍的原則」を、ゼロから読み解く
ブレント・ペンフォールドの名著『システムトレード 基本と原則』を、株もFXもこれからという人に向けて、章の順番どおり・余すところなく図解。『どうすれば儲かるか』ではなく、『なぜ多くの人が負け、どうすれば生き残れるか』を、やさしい言葉とイラストで解説する。
この本を3行で
- トレーダーの90%は負ける。勝者と敗者を分けるのは、当てる力や秘密の手法ではなく、「破産しない」ための規律と普遍的な原則を持っているかどうか。
- 成功には6つの普遍的原則がある(準備 → 自己啓発 → スタイル → 市場 → 3本の柱 → 実行)。中核は「最もうまく負ける人が勝つ」=損失を小さく管理すること。
- 3本の柱は「資金管理・売買ルール・心理」。なかでも資金管理(ポジションサイジング)が生き残りと複利成長の主役で、手法の優劣よりも効く。

01第1章 現実と向き合う ── まず「9割は負ける」という事実から始めよう第1章
うまく負けられる人だけが、最後に生き残る

この章で分かるのは、トレードという世界の「身も蓋もない現実」だ。なぜほとんどの人が負けるのか、初心者が1年目・2年目・3年目にどんな失敗を繰り返すのか、そして勝ち残る人だけが知っている地味な真実は何か。明るい夢物語ではなく、まず冷たい事実から始まる章だ。だが、ここを乗り越えた人だけが先に進める。
はじめに ── 著者がなぜこの本を書いたか
著者ブレント・ペンフォールドは、1983年からトレードを続けてきた人。最初に書いた本(オーストラリアの株価指数先物の本)が、なぜか先物に興味のない人にまで売れた。その理由は「トレーダーとして成功するための準備」を書いた部分にあった、と気づいたという。
つまり、どの市場・どの銘柄を選ぶかより、トレードの「良い手順・良い習慣」のほうがずっと大事。チャートはどの国のものでもチャートであり、勝ち負けを分ける原則は世界共通だ。著者はこれを「トレーディングで成功する普遍的な原則」と呼び、国境を越えて誰にでも役立つ一冊を書こうとした。
この本のスタンス:著者は自分を「専門家」とは呼ばない。ただ「お金を損した経験」では誰にも負けない、と言う。失敗の先輩として、あなたが同じ落とし穴にはまらないよう案内する立場だ。
著者自身が繰り返し強調する注意:本に書いてあること(この本も含む)を鵜呑みにするな。印刷されたから、セミナーで語られたからといって、それが真実とは限らない。必ず自分で検証してから信じること。懐疑的であることが、トレードでは良い結果につながる。
なぜトレーダーの90%は負けるのか
いきなり残酷な数字だが、全トレーダーの90%以上が負けているというのが現実だ。今あなたが負けていても、それは「ごく普通」のことで、悪い仲間がたくさんいるという話でもある。
多くの解説者は「負ける一番の理由は心理(メンタル)だ」と言う。だが著者の答えは違う。一番の理由は「無知」、そして人間がもともと「楽をしたがる(無精)」生き物だからだ、と主張する。楽な道を探すあまり、だまされやすくなる。
- 楽して儲かる方法があると信じたいので、うまい話に飛びつく
- 本やセミナーで聞いたことを、検証もせずに本物だと思い込む
- 教える側の多く自身が、実は勝てる方法を知らない(「もっと愚かな者」理論)
- だから本を何冊読んでも、検証する力がなければ無知のまま
ここが核心:無知は恥ではない。正しい知識を持ち、アイデアを忍耐強く検証できるようになれば、それはもう無知ではない。最初は儲からなくても、「何がまだ足りないか」を理解できる状態になる。
成功するトレードには3つの要素がある。売買ルール(売買する理由を分析し計画を立てる)、資金管理(1回にいくら賭けるか決める)、心理(計画に従う規律)だ。講演で聴衆に「どれが一番大事?」と聞くと、ほとんどが心理に手を挙げる。だが著者は、資金管理と売買ルールこそ心理より上に置くべきだと考える。
1年目によくする間違い
トレード1年目は、いわば「無知の王様」。本人は気づいていないが、行き当たりばったりだ。著者はこれらの失敗を、3つの要素ごとに分類して並べる(以下も全部、著者自身がやらかしたこと)。
| 分類 | 1年目のよくある間違い |
|---|---|
| 売買ルール | 耳寄り情報(他人のネタ)に従う / 毎晩のニュースに反応して翌日買う / 他人に意見を求める / ナンピンする / 損切りの逆指値が使えない / トレード計画が作れない |
| 資金管理 | 資金管理という考え方を、そもそも知らない |
| 心理 | スリル・刺激を求めてトレードする / 恨みを晴らす・借りを返すためにトレードする |
ナンピンとは、買った株が下がったとき、安くなったところで買い増して平均購入価格を下げること。たとえば6.60ドルで買い、6.00ドルに下がったところで買い増して平均6.30ドルにする。一見お得に見えるが、下がる株にお金を倍突っ込むのは損を膨らませるだけ。新人は「世界一、負け方が下手」だと著者は言う。
ニュースへの反応も典型例。「好決算」「GDPが予想超え」と夜のテレビで聞いて翌日買う。だが相場はそのニュースをとっくに織り込み済み。あなたの手元に届いた時点で、その情報はもう古い。
1年目最大の罠は「無計画」。耳寄り情報・ニュース反応・他人頼み・ナンピン・損切りしない、これらはすべて『トレード計画がない』という一つの病気の症状だ。計画なしで続ければ、うまくいかなくなるのは時間の問題。
2年目によくする間違い
1年目を全額溶かさずに生き延びると、人は「少し分かってきた」と勘違いして2年目に入る。ここからが本当に危ない。中途半端な知識を武器に、自滅的な作戦へ突き進むからだ。
- 読んだり聞いたりしたことを信じ込む
- テクニカル分析(過去の値動きから将来を読む手法)が唯一の答えだと信じる
- 指標を増やせば増やすほど良いと思い込む(画面が指標だらけになる)
- 『つもり売買』(紙の上での練習取引)が役立つと信じる
- 予測のワナ ── 相場がどこへ向かうか当てられると思い込む
- 天井や底を当てようとする / トレンドを見逃す
- 損切りの逆指値を守れない / 利益を早く確定しすぎる
『つもり売買』の落とし穴:紙の上ではいくらでも自分に都合よくごまかせる。負けトレードをこっそり取り消せてしまう。著者は「27年で、つもり売買で負けた人に一度も会ったことがない」と皮肉る。本番の緊張感がないので、実態を反映しないのだ。
「予測のワナ」とは、相場が決まったパターンで動くと信じ、方向や転換点を言い当てようとすること(エリオット波動やギャンが代表例)。著者自身、エリオット波動と幾何学的パターンに15年もハマった。当てに行く手法は魅力的だが、検証するとマイナスの期待値しか持たないと気づくことが多い。
そして2年目は「変える」の連続でもある。負けが続いて自信を失い、便乗(他人の真似)→売買法を変える→師(あがめる先生)を変える→市場を変える→時間枠を変える→ブローカーを変える、と原因を外に探し回る。資金管理ではまだリスクの取りすぎが続き、心理では相場にのめり込み、落ち着けず、非現実的な期待(年100%超のリターンなど)を抱き、損を何でも言い訳で正当化する。
大事なポイント:勝てない原因は『心』ではなく『売買ルール』にある、と著者は繰り返す。あなたの取引口座(=お金の増減)が、方法のまずさを正直に教えてくれている。そのメッセージを無視してはいけない。
3年目によくする間違い
1年目を切り抜け、2年目も耐えて3年目に来た人は称賛に値する。だが、まだ危うい。「これだけ時間とお金を投資したのだから、相場は自分に返す義務がある」という傷ついた自尊心という名の爆発物を抱えているからだ。
- 学んだことを捨てられない(意地で負ける手法を手放せない)
- 重要なのは結局『支持線と抵抗線』だと忘れ、複雑さに答えを求める
- テクニカル分析とトレードを混同し、セットアップとトレード計画を区別できない
- セットアップに沿ったトレード計画が作れない
- プラスの期待値を理解できない
- 売買ルールを正しく検証できない
- 資金管理 ── 相変わらずリスクの取りすぎが続く
- 心理 ── 手順より利益に重きを置く / 規律がない / 相場は手に負えないと信じる / 『秘密のトレード法』があると信じる / 最大のリスクはお金を失うことだと信じる / 最も難しいのは心理だと信じる
ここで大事な区別が出てくる。セットアップ=分析して「買い場・売り場の候補」を見極める第1段階。トレード計画=その候補を実際にどう仕掛け、どこで損切りし、どう手仕舞うかを決める第2段階。多くの人はセットアップが見えた瞬間に飛びつくが、それは間違い。成功者はこの2段階を分けて考える。
良いトレード計画は、仕掛ける前に相場へ「証拠」を要求する。買いなら、計画した値よりさらに高く動いてから入る。売りなら、さらに安く動いてから入る。つまり「相場が自分に味方し始めた」ことを確認してから乗る。当てに行くのではなく、追認するのだ。
検証についての誤解:純資産曲線をシミュレーションしたり、つもり売買をすれば検証になる、と思う人がいるが違う。多くの人は『実際にお金を使ってトレードすること』を検証と勘違いしている ── 儲かれば良いルール、損すればダメなルール、と。これは検証ではない。著者は別の手順(TEST、後の章で解説)を使う。
10%の勝ち組に入るには
答えはシンプル。新人が共通して陥る間違いを避け、勝者 ── 何十億ドルも運用するプロ、CTA(商品取引顧問業者)── から「手順志向のトレード」を学ぶこと。
手順を重んじれば、まずトレードの限界(自分が何をするか・しないか)を定義できる。きちんと手順に従った結果、「条件を満たさないから今回は見送り」となり、一度もトレードしないことすらある。だがトレードしなければ負けない。それだけで90%の負け組の先頭に立てる。勝ち組10%に入れなくても、少なくとも彼らの利益に貢ぎはしない。
著者は新人がたどる典型コースを図で示す。スタートから、ニュースと耳寄り情報に反応(-1,000ドル前後)→教育を始める→売買法を変える→師を変える→市場を変える(-15,000ドル)→時間枠を変える→ブローカーを変える(-20,000ドル)→心理のせいにする→「これが私の破産確率か?」(-25,000〜30,000ドル)と、お金を減らしながら同じ罠を順番に踏んでいく。
- 相場における最大の逆境(最悪の連敗)という原則を知る
- 相場に敬意を払う
- 読んだり聞いたりしたことすべてに疑問を持つ
- プラスの期待値を理解する
- すべてのアイデアを検証する
- 単純さ・パターン・確実性を探す
- 手順を重んじて調査・設計・検証を行う
- プロのような目標と、控えめな期待値を持つ
- 規律と一貫性を持つ
現実と向き合う(リアリティチェック)
今あなたが負けていて、ドローダウン(資金が目減りした状態)から抜け出そうともがいているなら、著者のアドバイスは明快だ ── いったんトレードを全部やめろ。手を止め、ペンを置き、相場から目を離せ、と。
トレードを止めるのは失敗を認めるようで辛い。だが著者は言う。「それは失敗ではない。期待値をプラスにできるまで中断するだけだ」。負けは恥ではなく、誰にでもあること。むしろ「本当に役立つことが見つかった」とワクワクすべき場面だ。
練習として、過去の全トレードに単純な損切りルール(例:買いなら直近3期間の最安値を割ったら手仕舞う、または前週安値を割ったら手仕舞う)を当てはめ直してみると良い。損が利益に化けはしないが、口座の見た目はきっとマシになる。うまく負けることは、本当に報われるのだ。
最もうまく負ける人が勝つ
これがこの章の、そして成功するトレーダーの「唯一本当の秘密」だ。ほとんどの人は潔く負けられない。損を確定したくなくて、損切りの逆指値を動かし、続ける言い訳を探す。手仕舞わない限り「自分はまだ間違っていない」と思えるからだ。
だが含み損が無視できないほど膨らんでから手仕舞えば、破滅的な損失になる。負けを嫌がり続ければ、いつか破産する。著者自身、短期トレードの勝率は約50%、中期のトレンドトレードに至っては30%ほど。勝率が高くないからこそ、うまく負けなければ生き延びられない。
覚えておくべき一文:トレードで損は避けられない。これを学んだ瞬間、あなたは成功へ具体的に一歩踏み出している。損切りは遅く・利益確定は早く、では確実に大損する。逆に『うまく負ける』ことができれば、低い勝率でも生き残れる。
この章のまとめ
人はパターンも確実性も持たないままトレードを始め、財布と心に打撃を受ける。幸運な人は、その痛みの中から『単純さ・パターン・確実性』へ、そして『手順を重んじること』へ向かい始める。
- トレーダーの90%以上は負ける ── 原因は心理よりも『無知』と『検証不足』
- 成功には3要素(売買ルール・資金管理・心理)があり、心理より資金管理と売買ルールが上
- 1〜3年目に人が踏む罠はほぼ決まっている ── 当てに行く・損切りできない・原因を外に探す
- セットアップ(候補探し)とトレード計画(実行ルール)は別物。計画は相場に『証拠』を要求する
- 本も人の言葉も鵜呑みにせず、必ず自分で検証する
- 最後に勝つのは、最もうまく負けられる人。損を潔く受け入れることが生き残りの土台
まとめのまとめ:プラスの期待値と正しい検証の重要性を発見し、手順を重んじられるようになれば、あなたはプロのCTAのように考え・行動し始める。この本のゴールは、まさにそこへあなたを連れて行くことだ。
02トレーディングの全体像 ― 「始める」は最後の一歩第2章
成功する6つの原則を、順番どおりにたどる地図

この章では、トレードで成功するための「全体の流れ」をつかむ。著者ブレント・ペンフォールドは、成功には6つの普遍的な原則があり、それを正しい順番でたどることが大事だと言う。次の章からは一つひとつを詳しく見ていくが、まずはこの章で地図の全体像を頭に入れよう。
なぜ最初に「手順」を学ぶのか ― 選択肢が多すぎる世界
トレードを始めようとすると、いきなり大量の選択肢が目の前に並ぶ。デイトレード、短期トレード、トレンドトレード、裁量かシステム(機械的)か、テクニカル分析かファンダメンタル分析か。さらにダウ理論、エリオット波動、フィボナッチ、ギャン、サイクル分析、各種チャートパターン…と、用語だけでも目がくらむ。
著者はこれを「テクニカル分析の混乱する世界」と呼ぶ。手法のカタログを全部説明するのではなく、どんな手法を使うにしても共通する『成功の手順』を先に示す、という立場をとる。地図もなしに森に入れば迷う。だからまず地図(=手順)を渡そう、というわけだ。
初心者がつまずく一番の原因は「どの手法が当たるか」を探し回ること。だが本書の主張は逆で、手法そのものより『正しい順番でやること』が勝敗を分ける。手法探しの迷路に入る前に、まず全体の流れを押さえよう。
成功する6つの普遍的な原則(全体フロー)
トレードで成功するための手順は、大きく6つの原則に分かれる。順番にも意味がある。上から順に積み上げていくイメージだ。
| 順番 | 原則 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 1 | 準備 | マーケットとトレードに何を期待できるかを知り、土台を固める |
| 2 | 自己啓発 | 成功に何が必要かを知り、生き残るための正しい道を選ぶ |
| 3 | トレーディングスタイルを作る | 自分のトレード方法(やり方)を選ぶときに知るべきことを学ぶ |
| 4 | 市場を選ぶ | トレードする最良の市場を選ぶ |
| 5 | 3本の柱 | 資金管理・売買ルール・心理という具体的な3要素を固める |
| 6 | トレーディングを始める | すべてをまとめて、実際に売買を始める |
ここが核心 ― 「実際に売買を始める」のは6つのうち一番最後。土台(1〜2)→やり方(3〜4)→中身(5)を整えて、ようやく6で始める。この順番こそが本書の背骨だ。
① 準備 ― 期待値を正しく持ち、行きすぎを防ぐ
「準備」では、マーケットとトレードに対して何を期待できるかを説明する。始める前にトレーダーができることを示し、無理をして行きすぎないようにブレーキもかける。きちんとした準備こそが、トレードの確実な基礎になる。
② 自己啓発 ― エネルギーをどこに注ぐか
「自己啓発」では、成功するために何が必要かを説明する。トレーダーがどこに力を注ぐべきかを指摘し、トレードで生き残るための正しい道を案内する。手法を増やすことより、自分自身を整えることに目を向ける段階だ。
③ トレーディングスタイルを作る ― 自分のやり方を決める
「トレーディングスタイルを作る」では、トレード方法を選ぶときに知っておくべきことに焦点を当てる。デイトレードか長めの保有か、機械的か裁量か。自分に合うスタイルを選ぶための判断材料を学ぶ。
④ 市場を選ぶ ― どこで戦うかを選ぶ
トレードを行う最良の市場を選ぶ方法を知ることは大切だ。著者はこう釘を刺す ― 操作されやすい小さな市場でわざわざトレードしなくても、トレーディングはすでに十分に難しい。戦う場所選びを誤れば、それだけで不利を背負う。
出来高の薄い小さな市場は値動きが操作されやすく、初心者には不利になりやすい。難易度の高い場所を自分から選ばないこと。これも立派な準備の一部だ。
⑤ 3本の柱 ― 資金管理・売買ルール・心理
「3本の柱」では、トレードで成功するための具体的な3つの要素を説明する。それが資金管理・売買ルール・心理だ。3本そろって初めて建物(トレード)が立つ、という比喩で覚えておくとよい。どれか1本でも欠けると倒れる。
- 資金管理 ― 1回にいくら賭けるか、リスクをどう抑えるか
- 売買ルール ― いつ買い、いつ売るかの明確な決まり
- 心理 ― ルールを実行し続けるための心の保ち方
⑥ トレーディングを始める ― すべてをまとめる
「トレーディングを始める」は、①〜⑤で整えたすべてを一つにまとめる最後の段階だ。ここで初めて実際の売買に入る。逆に言えば、ここまでの準備なしに飛び込むのは順番を飛ばす行為になる。
多くのトレーダーが負ける理由がここにある ― 彼らのほとんどは、最初にいきなりトレードを始めてしまう。それは本来、一番最後にすべきことなのだ。
この章のまとめ ― 成功の手順は6つ:①準備 ②自己啓発 ③スタイル作り ④市場選び ⑤3本の柱(資金管理・売買ルール・心理) ⑥トレーディングを始める。『始める』は最後。順番を守ることが勝者と敗者を分ける。次章からは①準備から一つずつ掘り下げていく。
03準備 — 相場の過酷さを受け入れ、覚悟を決める第3章・原則1
勝つことより「うまく負けること」。成功の出発点は心構えと損失管理にある

この章で学ぶのは「トレードを始める前の心構え」だ。著者はこれを成功の最初の普遍的な原則「準備」と呼ぶ。儲け方の技術ではなく、相場という世界がどれだけ過酷で、何を受け入れて臨むべきかを正直に語る章だ。著者ははっきり言う。ここに書かれたことをまだ受け入れられないなら、本当はトレードを始めるべきではない、と。
準備とは「あなたが本気でトレードする覚悟があるか」を測るふるいだ。気が進まないなら、損をする前にやめるのが一番安上がりでがっかりも少ない、と著者は言う。
トレードで勝者と敗者を分けるために、準備段階で受け入れるべきことは大きく8つある。最大の逆境、感情のコントロール、負けゲーム、相場のランダムな動き、最もうまく負ける人が勝つ、リスク管理、トレーディングパートナー、資金の限度だ。順番に見ていく。
最大の逆境 — 相場はわざと難しくしてくる
著者の言う「最大の逆境」とは、相場があなたを失望させるために全力を尽くしている、という考え方だ。相場はあらゆる障害をあなたの行く手に投げかけ、自分の判断を疑わせ、トレードを極限まで難しくしてくる。
なぜか。相場は最大の逆境を全参加者に課して規律を試し、その結果として大多数の弱者から少数の強者へ確実にお金を移す装置だからだ。トレードが簡単なら、誰もが勝っているはずだ。実際はそうならない。
「話がうますぎる」と感じたら、それは多分うますぎる。きれいすぎる純資産曲線、簡単に儲かるソフト、何にでも答えられるアナリスト、これらはすべて疑ってかかること。経験を積むまで、人は耳にしたこと・読んだこと・見たことを鵜呑みにしがちだ。
ヤシの木の下でノートパソコン片手に気楽に稼ぐトレーダー像は、現実からほど遠い。最大の逆境のせいで、損をすれば傷つき、利益が出ても「もっと持っていれば」と悔やみ、研究やセミナーに時間とお金を注いでも報われない苦痛を味わう。トレードは自分の行動に100パーセントの責任を負わされる世界だ。
感情のコントロール — 目標と期待値を作り直す
感情のコントロールは成功に特に重要で、トレードの2つの基礎「目標」と「期待値」にかかわる。著者は断言する。トレードの目的が「勝つこと」なら、ほぼ確実に失敗する。「大金を稼ぐ」と期待しているなら、成功しないことは確実だ、と。
目標について。人は本能的に「勝ちたい」「正しくありたい」と思う。正しい車、正しい学校、正しい株を選びたがる。だがトレードでは、この「勝ちたい」「正しくありたい」という願いこそが利益の妨げになる。勝つことは方程式の半分にすぎない。
第一目標を「勝って大金を稼ぐ」から「リスク資産を管理する」に置き換える。これが核心だ。目標が一貫して・賢明で・持続可能なトレードへ変われば、感情をコントロールできるようになる。
期待値について。非現実的な期待は「勝つことしか考えられない」状態と同じくらい不幸だ。両方が重なると感情は崩壊する。成功を続ける最重要のコツは控えめな期待をすること。著者は世界の株式市場の過去20年の年平均が約8パーセントだったと触れたうえで、自分はリスク資産に対して年率20パーセント台しか望まない、と語る。難しいのはそれを一貫して達成することだ、と。
| 考え方 | 発想 | 結末 |
|---|---|---|
| トップダウン(避ける) | 多くトレードするほど儲かる。もっと欲しい | 強欲が膨らみハードルが上がり、勝てる方法をいじって自滅 |
| ボトムアップ(おすすめ) | 割り当てたリスク資産に対し、12カ月で何パーセントなら満足かを自問 | 控えめな期待が定まり、良いときも悪いときも同じルールで続けられる |
負けゲーム(マイナスサムゲーム) — 勝ち目は低い前提で臨む
トレードは「敗者のゲーム」だという事実を受け入れたら、準備は次へ進む。マイナスサムとは、手数料やスプレッドなどのコストが差し引かれ、参加者全体では取り分が減っていく構造のこと。だから勝ち目はかなり低い。
著者の「90×90ルール」。トレーダーの90パーセントは90日以内にリスク資産を失う。活発にトレードを始めるとは、敗者のゲームに参加するということだ、とはっきり理解しておく。
相場のランダムな動き — 予測できる前提を捨てる
準備では、相場は基本的にでたらめに動くという事実も受け入れる必要がある。「予測できる」とほのめかす宣伝文句は無視してよい、と著者は言う。
相場を予測する理論は数多い。サイクル分析、エリオット波動、マーケットプロファイル、季節性、W・D・ギャンなど。だから予測できると考えても無理はない。しかし結局のところ、相場の動きは完全にではないにせよ基本的には無秩序だ、というのが著者の立場だ。
最もうまく負ける人が勝つ — 損失管理こそ唯一の秘密
トレード成功の本当の秘密はただひとつ、損失を管理することだ。損失を対応できるほど小さく抑え、利益を損失より大きくできれば、敗者のゲームで一歩先んじる。勝ちトレードはほとんど気にしなくてよい。普通は問題にならず、利は伸びてめったに損にならない。
- 最もうまく負けるとは、できるだけ早く負けポジションを手仕舞うこと。
- 損切りの逆指値は、価格に基づくものと時間に基づくものの二重にしておくとよい。
- 裁量トレードで思った動きがなければ、相場に耳を傾け手仕舞う。負けトレードを引きずると少しずつ自信を失い苦しめられる。
- セットアップをごまかさず、「もっと早く損切りできる方法はないか」と常に自問する。
リスク管理 — トレード=リスク管理とみなす
トレードのリスクは非常に高い。トレードでの成功とは、実はリスク管理での成功を意味する。生き残るためには、トレードそのものをリスク管理だとみなす必要がある。
成功したトレーダーは、どうリスク管理を改善するかで頭がいっぱいだ。良いリスク管理の核心は資金管理(これは後の章で詳述される)だが、その前にまず何よりリスクを考えに入れる。良いトレーダーは良いリスクマネジャーであり、それが勝者と敗者の違いだ。勝者はただ生き残ることに集中する。
トレーディングパートナー — 自分にウソをつかせない第三者
準備で決定的に大切な部分が、トレーディングパートナーを見つけることだ。目的はただひとつ、トレーダーが自分にウソをつかないようにするため。トレードを始める前は誰もが理性的で正直だが、始めるとまもなく理性を失い、自分に小さなウソをつき始めるからだ。
- 必ずしもトレーダーでなくてよいが、あなたが尊敬する人であること。
- あなたから少し離れた人。一緒に住んでいる人ではダメ。
- あなたのしていることに関心があり、手伝うことに賛成してくれること。
- あなたの投資基準(最低でも資金の限度・控えめな期待値・資金管理のルール)を知っていること。
パートナーは2つの場面で働く。トレード前は、売買ルールがプラスの期待値を持つと証明できるまで(後述のTEST手順)あなたを思いとどまらせる。トレード中は、毎月の報告書を投資基準と照らし合わせ、まるで罪を聞く司祭のように規律と一貫性を保たせてくれる。見られていると分かれば計画から外れにくい。適当な志願者が見つからなければ、テクニカルアナリスト協会のような同好の集まりに加わるのも手だ。
資金の限度 — 失う覚悟がある総額を先に決める
準備の最終段階。トレードで損切りの逆指値を置くのと同じように、始める前に「失う用意がある金額」を決めておく。これはあなたの教育に投資するリスク資金であり、失っても覚悟できる総額のことだ。
過去の多くのトレーダーは「尊敬する誰かに約束して、限度に来たらやめておけば良かった」と願ったはずだ。先に限度を決めておけば、すべてを失う可能性は限られる。
まとめ
- トレードは大変な仕事であり、新兵訓練所と同じ。極めて不利な戦いだと受け入れる。
- 相場は予測の手掛かりをあまり残さず、ランダムに動き続ける。
- 直観は現実とは逆さま。報われるのは勝者ではなく「最良の敗者」だ。
- 利益を生む主な力は、上手なトレードよりも良いリスクマネジャーであること。
- 控えめでプロにふさわしい期待を持ち、感情をコントロールする。
- トレーディングパートナーが正直さを保たせ、資金の限度が破滅を防ぐ。
これらすべてを受け入れられるなら、最初の普遍的原則「準備」を学び終えたことになる。予想外のものを予想する用意ができた状態だ。次の原則は「自己啓発」へ続く。
04原則2「自己啓発」――まず生き残る、それから勝つ第4章・原則2
破産しない仕組みをつくり、聖杯ではなく「期待値×機会」を武器にする



この章のテーマは「自己啓発」。むずかしい精神論ではなく、トレードで生き残るために何に力を集中すればいいかをはっきりさせる、という意味だ。著者はくり返し「生き残ること」を強調する。生き残れさえすれば、その先に成功がある、という考え方だ。
この章を読むと、(1)破産しない確率の考え方、(2)完璧な手法(聖杯)は無いと受け入れること、(3)勝率より大事な「期待値」、(4)単純さの追求、(5)みんなが怖がる方向に進む勇気、(6)本番前の検証(TEST)、までが一通り分かる。順番に見ていこう。
破産リスク(破産確率)を避ける
破産確率とは、損が積み重なって「ここでもう退場」と決めた地点(破産ポイント)に達してしまう確率のこと。著者はこれをトレードで一番大事な考えだと言う。にもかかわらず、ほとんどの人は自分の破産確率を知らない。だから負けても不思議ではない、というわけだ。
ここが核心。破産ポイント=全額ゼロとは限らない。自分が「これ以上は耐えられない」と決めた損失ライン(資金の50%でも75%でも100%でも)のこと。まずそのラインに達する確率を計算するのが第一歩だ。
本では同じ手法(システムワン:勝率56%、平均利益=平均損失、資金1万ドル)を使う3人で比較する。ボブは1回2000ドルずつ賭ける(=資金は5回分)。サリーは1000ドルずつ(=10回分)。トムは500ドルずつ(=20回分)。同じ手法でも1回の賭け金が違うと、破産確率はまるで変わる。
| トレーダー | 1回の賭け | 資金の分割 | 破産確率 |
|---|---|---|---|
| ボブ | 2000ドル | 5ユニット | 約30% |
| サリー | 1000ドル | 10ユニット | 約9% |
| トム | 500ドル | 20ユニット | 約1% |
同じ手法なのに、1回あたりを薄く賭けたトムは破産確率がたった1%。賭け金を増やすほど破産しやすくなる、という関係がはっきり見える。著者は「最低でも20ユニットに分けて、破産確率を1%まで下げよ」と勧めている。
破産確率を下げる手段は3つある、と本はまとめる。下の表の通りだ。なお手法を改良して勝率を56%→63%に上げると(システムワンMk2)、ボブは30%→7%、サリーは9%→0.5%、トムは1%→0%近くまで下がった。勝つ回数が増えれば失敗の確率が下がるのは当然、というわけだ。
| 破産確率を下げる手段 | 中身 |
|---|---|
| ①1回の賭け金を減らす | 資金を細かく分けてリスクを小さくする |
| ②勝率を上げる | 当たる確率の高い売買ルールにする |
| ③ペイオフレシオを上げる | 平均利益÷平均損失。勝ちを大きく、負けを小さく |
重大な注意。破産確率はあくまで「統計上の数字」。0%でも将来の保証ではない。勝率や利益が将来悪化すれば確率も上がる。数学的に厳密な0.0%は不可能で、0.5%未満を四捨五入して0%と呼んでいるだけ。奇跡を起こす魔法ではない。
破産確率には限界もある、と著者は正直に書く。あくまで統計尺度で、入力値が悪化すれば自分も損をする。トレードごとに変わる。そして実戦では実用的な価値がない――実際にやめ時を判断するときは破産確率ではなく、後の章で学ぶエクイティモメンタムやシステムストップを使う。それでも「生き残るための道を開くカギ」として最重要だ、という位置づけだ。
トレーディングの聖杯は無いと受け入れる
ドローダウンが最小で勝率が極めて高い「完璧な手法=聖杯」を探す人は多い。著者の答えはシンプル。そんな聖杯は存在しなくても驚かない、だ。完璧なシステム探しに時間を溶かすのはやめよう、というメッセージである。
著者なりの「本当の聖杯」はこれ。聖杯=プラスの期待値(E)×機会(O)。プラスの期待値を生み、しかも何度もトレードできる売買ルールを作ること。検証済みの優位性(エッジ)を、たくさんの機会に当てはめる――それだけが口座を増やす唯一の方法だ。
期待値(プラスの期待値)
期待値とは、1回のトレードでリスクに出した資金1ドルあたり、平均してどれだけ稼げると見込めるか。著者いわく、これから始める人も今やっている人も、ほとんどがこれを一番理解していない。計算には「勝率・敗率・平均利益・平均損失」の4つが要る。
例:勝率60%、平均利益=平均損失の手法で計算すると、期待値は20%。これは「1ドル賭けるごとに平均20セント稼げる」という意味だ。賭け金が2000ドルのボブは1トレード平均400ドル、年10回で4000ドル。賭け金が小さいサリー・トムも期待値は同じ20%――稼ぐ「率」は3人とも同じで、違うのは破産確率(生き残りやすさ)だけ、という点がポイントだ。
次に4つの手法を比べると、期待値の本質が見えてくる。注目は最も勝率の低いトレンディ(勝率30%)が、利益も期待値も一番高かったこと。平均利益が平均損失よりずっと大きければ、勝率が低くても期待値は大きくなりうる。
| システム | 勝率 | 平均利益 | ペイオフレシオ | 期待値 |
|---|---|---|---|---|
| システムワン | 60% | 500 | 1 | 20% |
| ジョバー | 90% | 300 | 0.6 | 44% |
| スインガー | 70% | 614 | 1.2 | 56% |
| トレンディ | 30% | 2266 | 4.3 | 66% |
初心者がはまる罠。「勝率が高い=良い手法」ではない。勝率90%のジョバーより、勝率30%のトレンディのほうが期待値も利益も上だった。勝率かペイオフレシオの片方だけを気にしすぎないこと。見るべきは両者を合わせた期待値だ。
そして期待値だけでも足りない。残り半分は「機会」だ。本の例では、期待値100%のハイオクタンは年に数回しか出番がなく利益1500ドル。一方ほぼ互角のスインガーとビジー・ビーは、機会が10回か20回かで差がつき、20回のビジー・ビーが勝った。市場を1つ増やせば機会は2倍、もう1つで3倍。期待値×機会の両輪が必要、ということだ。
単純さを追求する
良い期待値の売買ルールを作るカギは「単純さ」。単純さは2つの水準で効く。仕組みの単純さと、支持線・抵抗線の見極めの単純さだ。
仕組みの単純さの目安が「マクドナルドテスト」。10代の子どもが理解して使えるくらい単純か、ということ。調整できる変数(設定をいじれる部品)が多すぎる手法は、理屈の上ではかえってうまくいかなくなりやすい。複雑な理論ほど知的で魅力的に見えるが、そこには罠がある。
複雑さに答えがあると信じるのは、負ける人の典型。市場をルービックキューブのように考え、巧妙な理論に引き寄せられてしまう。魅力的な声が無数にあっても、そのすべてが正しいはずはない。単純にしておくのが一番だ。
もう1つは支持線・抵抗線の単純さ。トレードの核心は「支持線(下げ止まりそうな価格)・抵抗線(上げ止まりそうな価格)を見極める」こと、それ以上でも以下でもない。支持線で買い、間違いと判断する水準に損切りの逆指値を置く。抵抗線で売り、やはり外れる水準に逆指値を置く。最新ソフトや小難しい分析に夢中になって、この基本目標を見失ってはいけない。詳しくは第9章で扱われる。
ほとんどの人が恐れるところを進む
勝つトレーダーは全体の10%以下。だとすれば、生き残るには多数派(大衆)と同じ行動を捨て、少数派になる必要がある。みんなが西を見ているなら東を見よ、という発想だ。みんなが怖がって近づかない領域こそ、少数派が活きる場所になる。
- 一番うまい負け方をする――多くの人は損切りを嫌い逆指値を動かす。最高の「負け方上手」になる。
- 一番うまい勝ち方をする――多くの人はわずかな利益を惜しんで早く手仕舞う。計画が許す限り勝ちを伸ばす。
- トレンドトレーダーになる――勝率は低く、勝てるのは約3分の1。残り67%の負けに耐え、それを誇りに思えるよう努める。
- 単純さを受け入れる――人は単純な解を疑い、複雑さに利点を探す。動かす要素の少ない手法を研究・開発する。
- 市販の相場ソフト(指標)を疑う――組み込まれた指標も、使う前に自分で検証する。
- 市販のトレードシステムを疑う――「楽に金持ち」の宣伝に流されず、距離を置き厳しく問う。
- 自分で徹底的に調べる――多くの人は怠けがち。価値があると思うアイデアは自分で研究・調査・検証する。
検証(バックテスト)
良い期待値・十分な機会を持つ単純な売買ルールを設計したら、本物のお金を使う前の最終段階が「期待値の検証」だ。著者の方法はTEST――Thirty Emailed Simulated Trades(30回の電子メールによるシミュレーション売買)の頭文字をとった造語。
正しく検証する唯一の方法は、アウト・オブ・サンプル・データ(これまで使っていない、できればリアルタイムの生のデータ)で、本番と同じ状況をシミュレーションすること。やり方はこうだ。
- 寄り付き前に、その日の注文をトレーディングパートナーへメールで送る。
- パートナーはそのメールを印刷し、寄り付き前に届いた注文だけを受け付ける。
- パートナーが仮想ブローカー役として結果を記録し、30回終えたらメールを返送する。
- 返ってきた記録から、この章の公式で自分の期待値を計算する。
- 期待値がプラスで、特定の1トレード頼みでなければ、その売買ルールは検証済みと分かる。
ひとりでの「つもり売買」は検証にならない。独立した観察者がいないし、市場の融通の利かなさ(取り消せない・ごまかせない緊張感)を再現できないからだ。だから一緒に暮らしていないパートナーへメールで送り、取り消し不可のルールで行うことが大切。恥ずかしくても、本物のお金を失うよりはずっといい。
期待値がプラスでなければ最初に戻り、プラスになるまでTESTをくり返す。TESTは裁量(自分の判断)でもメカニカル(機械的ルール)でも使える。メカニカルの人は、過去データできれいな純資産曲線が出ても「検証済み」と誤解しないこと。それは過去に合わせ込んだだけ。後ろを見るのはごまかしで、大事なのは前に進むことだ。
検証にはもう1つ効用がある。自分の売買ルールを心から信じられるようになることだ。無意識の疑いがあると、良い手法でも使い続けられない。実際の条件を模した検証を重ねると信念体系がルールに「同調」し、本番でも従いやすくなる。ネット証券のデモ口座はTESTの前段階として役立つが、他人に成績を監視される緊張感には代えがたいので、TESTそのものの代わりにはしない。
この章のまとめ
自己啓発のゴールは「破産リスクを避ける」こと。生き残れば成功する。本章で示された生き残り方は次の通り――①賢い資金管理で1回のリスクを減らす、②勝率を上げる、③ペイオフレシオを上げる、④勝率でなく期待値を上げる設計にする、⑤トレード機会が増えるよう組み立てる、⑥単純な売買ルールにする、⑦支持線・抵抗線を見極める、⑧みんなが恐れるところを進む、⑨TESTで期待値を検証する、⑩検証を通じて信念体系を築く。次章はトレーディングスタイルの開発(原則3)へ進む。
05トレーディングスタイルを作る — 「どう戦うか」を先に決める第5章・原則3
手法(順張り/逆張り)と時間枠の組み合わせで、自分の戦い方が決まる

この章のテーマは「トレーディングスタイルを作る」こと。成功するための3つ目の普遍的な原則だ。スタイルとは、ざっくり言えば「あなたの戦い方」のこと。これは2つの要素を決めることで形になる。ひとつは手法(どう仕掛けるか)、もうひとつは時間枠(どれくらいの期間ポジションを持つか)だ。
トレーディングの種類 — 順張りか、逆張りか
手法とは「どんな種類のトレードをするか」のこと。種類は大きく2つしかない。トレンド(相場の流れ)に沿って乗っていく順張り(トレンドトレーディング)と、トレンドに逆らう逆張りだ。逆張りは普通スイングトレードと呼ばれるので、この本でも「逆張り」ではなく「スイング」と呼ぶ。
- 順張り(トレンドトレーディング):流れに乗る。上昇トレンドなら買う
- 逆張り(スイングトレード):流れに逆らう。上昇トレンドの中で売って、短い反落をとる
トレードは「流れに沿う」か「流れに逆らう」かのどちらか。ここは簡単だ。本当に難しいのは、いま相場がどちらに向かっているのか(トレンドの方向)を見極めることだ。これはどちらのスタイルでも共通の難所になる。
ここで意外な事実。相場に一貫したトレンドが出ているのは、全期間のおよそ15%だけ。残りの85%はレンジ相場(行ったり来たりで方向感のない状態)で、ちゃぶつく。トレンドトレーダーが報われにくいのはこのためだ。
順張りのトレンドトレーダーは、勝率は低く負けが多い。ただし勝つときには大勝ちする。ポジションを持つ期間はたいてい数週間から数カ月。一方スイングトレーダーは勝率が高めだが、1回の利益は小さい。数日から長くても数週間で手仕舞う。多くの成功したトレーダーは、この両方を計画に取り込んでいる。
トレーディングの時間枠 — どれくらい持つか
もうひとつの要素が時間枠。ポジションを持つ期間で、ざっくり4種類に分けられる。
| 時間枠 | ポジションを持つ期間 |
|---|---|
| デイトレード | その日の終わりまでに手仕舞う(翌日に持ち越さない。1日に何度も売買することも) |
| 短期 | 最長で1週間ほど |
| 中期 | 2〜3週間まで |
| 長期 | 1カ月以上持ち続けることもある |
ただし、この区切りは厳密なものではない。トレーダー間でスケジュールの違いをきっちり線引きすることはできない、と原著も認めている。あくまで目安として捉えればいい。
自分のトレーディングスタイルを選ぶ — 「自分らしさ」の罠
手法と時間枠を掛け合わせれば、選べるスタイルはたくさんある。世の中の多くの本は「自分の個性や気質に合ったスタイルを選べ・作れ」とアドバイスする。あなたも何度も聞いたことがあるだろう。直感的には筋が通っている。だが、ここに著者は待ったをかける。
この一般的な助言には問題がある、というのが著者の主張だ。理由は3つ。
- 第一に、相場について書かれた手法のほとんどは役に立たない。一貫して利益が出ると客観的に証明されたものはめったになく、自分の個性に合わせて手法を「えり好み」できるほど選択肢は豊かではない
- 第二に、トレーディングで「心地よい」と感じるものはたいていうまくいかない。心地よいなら皆がやっていて、皆が儲かっているはず。最大の逆境(チャンス)は、心地よく利益を手渡してはくれない
- 第三に、スタイルによって必要な資金がまったく違う。長期のトレンドトレーディングは短期スイングよりずっと多くの資金が要る
「心地よさ」の正体に注意。大勢が同じ見方をしているとき、トレードは安心して心地よく感じる(数による安全性)。だが、あるアイデアが大衆に広まったときには、それはすでに価格に織り込まれている。皆の意見が一致した後に乗る人は「最後に買う人」になりがちで、後に続く買い手がいない。心地よさはトレーダーを葬り去りうる。
この章の核心。あなたの最終的なスタイルを決めるのは、あなたの個性ではない。期待値と機会と検証だ。言い換えれば、調べてみて初めて分かる。だからこそ「最大の逆境のルール」が効いてくる。
必要資金の現実 — タートル流の例で学ぶ
なぜ長期のトレンドトレーディングは大金が要るのか。それは「できるだけ広い範囲に、できるだけ長く綱を投げ、できるだけ多くの市場をおおう」ことで、年に1〜2回しか来ない急騰相場をつかむ手法だからだ。そのため20〜30銘柄を監視しトレードする必要がある。
具体例。20日移動平均線が60日移動平均線を上抜けたら買う、という長期手法を考える。勝率が30%でも、平均利益:平均損失を3対1にできれば利益は出る。前章の期待値の公式で言えば、1ドルのリスクごとに約20セント(20%)のリターンだ。ただし成功させるには20〜30銘柄のポートフォリオが要る。これは多くの個人トレーダーの資金限度を超える。
有名なタートルトレーディングシステム(20〜30銘柄でトレードする長期トレンドフォロー)が好例だ。著者が示す例では、100万ドルの口座で運用した2007年、好調な年だったにもかかわらず、2007年2月の125万ドルから3月後半の50万ドルまで、最大約60%(75万ドル)のドローダウン(資産の落ち込み)に苦しんだという。個人トレーダーの多くはこの損失に耐えられない。
著者の実体験も生々しい。タートルは個人向きではないと著者が伝えたのに、それを無視してセミナーに参加したトレーダーがいた。長期トレンドフォローでよくある大きなドローダウンが起きると、ポジションを持ちすぎていた彼の小さな口座は追証(おいしょう=追加で求められる証拠金)に耐えられず吹き飛んだ。システムが悪かったのではなく、資金に対してポジションが多すぎたのだ。
対照的に、ラリー・ウィリアムズの短期パターン手法は1〜2銘柄に集中できるので、資金に限りがある個人でも無理なくできる(対してラッセル・サンズが教えるタートル流は20〜30銘柄分の資金が要る)。資金量が、選べるスタイルを現実に縛るのだ。
長期のトレンドトレーディングの主な特徴
長期トレンドトレーディングの特徴を、生き残りに必要な3要素(資金管理・売買ルール・心理)で整理すると次のようになる。
| 要素 | 主な特徴 | 程度 |
|---|---|---|
| 資金管理 | ポートフォリオ | 大(20〜30銘柄) |
| ドローダウン | 大・長期 | |
| 必要資金 | 大(証拠金の20〜30倍) | |
| 売買ルール | 時間枠 | 長期(1カ月以上) |
| 勝率 | 低(25〜35%) | |
| 平均利益÷平均損失(ペイオフレシオ) | 高(3.0以上) | |
| 期待値 | 良い | |
| 1銘柄当たりの機会 | 少ない | |
| 手数料とスリッページ | 少ない | |
| 心理 | 精神的ハードル | 高い(頻繁な損失・長いドローダウン・休みにくい) |
資金管理面では、トレンドが出るのは15%だけなので、その年最高のトレンドを1〜2本つかむために20〜30銘柄を監視する。負けが多いぶんドローダウンは大きく回数も多く、長くその中で過ごす。しかもいつどの銘柄が当たり年になるか分からないので、都合に関係なくすべての銘柄・すべての機会でトレードする必要があり、同時に全ポジションへ資金を回せる用意が要る。
売買ルール面では、損切りに引っかからないかぎりポジションを1カ月以上持つ(これまでの小さな損失を埋めるため利を伸ばす)。勝率は25〜35%と低いが、ペイオフレシオは平均利益が平均損失の少なくとも3倍。期待値は良く、3対1で勝率30%なら期待値は20%([30%×3.0]−[70%×1.0])。1銘柄当たりの機会は少ないため多銘柄で補う。トレード数が少ないので手数料・スリッページの割合は低い。
心理面が最大の壁。頻繁な損失からは「正しい」という肯定的な反応が得られず、心が「もう負けたくない」と叫ぶ。ドローダウンが長引くと続けるのが精神的につらい。さらに次の大勝がいつ来るか読めないので一つのシグナルも見逃せず、代わりに注文してくれる人がいないと休暇すら取りにくい。
短期のスイングトレードの主な特徴
次に短期スイングトレード。同じ3要素で見ると、長期トレンドとは正反対の顔をしている。
| 要素 | 主な特徴 | 程度 |
|---|---|---|
| 資金管理 | ポートフォリオ | 小(1銘柄以上) |
| ドローダウン | 小・短期 | |
| 必要資金 | 小(証拠金の1倍) | |
| 売買ルール | 時間枠 | 短期(1〜5日) |
| 勝率 | 高(50%以上) | |
| 平均利益÷平均損失(ペイオフレシオ) | 低(1.0以上) | |
| 期待値 | 良い | |
| 1銘柄当たりの機会 | 多い | |
| 手数料とスリッページ | 大きい | |
| 心理 | 精神的ハードル | 低い(頻繁な利益・短いドローダウン・休みやすい) |
資金管理面では、1銘柄でも成立するので必要資金が少ない。ドローダウンも小さく短く、純資産曲線(資産の推移グラフ)が比較的なめらかになりやすい。少数の大勝に年間成績を依存しないからだ。1銘柄でも複数でもよいが、利益を出すために複数銘柄が必須というわけではない。
売買ルール面では、1〜5日以内に手仕舞う。トレンドの終わりまで乗るのではなく、相場の短い「スイング(揺り戻し)」だけを取りにいく。勝率は50%以上と高い。期待値の例として、勝率55%・ペイオフレシオ1.3なら、1ドルのリスクごとに26.5セント([55%×1.3]−[45%×1.0])を稼げると期待できる。
短期スイングの泣きどころは取引費用。機会が多く1回の利益が小さいぶんトレード回数が増え、手数料とスリッページがかさむ。利益に占める割合も大きくなる。デイトレードで儲けるのが特に難しいのはこのためだ(使える値幅が小さいうえに費用を払う必要がある)。
心理面はむしろ追い風。勝つことが多く「正しい」という肯定的な反応が繰り返し返ってくるので、シグナルに従い続けやすい。ドローダウンは対処できる程度で短く済む。10回に1回シグナルを逃しても年間成績への影響は小さいので、休むこともできる。
長期トレンド vs 短期スイング — どちらを選ぶか
両極端を並べて比べると、資金に限りがある個人トレーダーには短期スイングのほうが好ましい、という結論になる。比較すべきは主にこの4点だ。
- ポートフォリオ:短期スイングは小さく(1銘柄でも可)、対処しやすい
- ドローダウン:短期スイングは小さく短い
- 必要な資金:短期スイングは少なくて済む
- 精神的なハードル:短期スイングは低い
期待値はどちらも同じになりうるので、決め手にはならない。ただし単一銘柄でスイングするのが好みなら、トレード機会が十分にあるかを確かめる必要がある。なお両極端の中間に、中期のスイングやトレンドトレーディングといった戦略もある。著者自身は短期・中期のスイングとトレンドトレーディングを組み合わせて取引していると述べている。
もう一度、悪い知らせ。個性に合うスタイルを自由に選べるわけではない。それが「最大の逆境のルール」。あなたのスタイルを決めるのは個性ではなく、期待値・機会・検証だ。つまり調べる手間(調査費)がかかる。
この章のまとめ
- スタイル=手法(順張り/逆張りスイング)×時間枠(デイ・短期・中期・長期)で決まる
- トレンドが出るのは相場の約15%だけ。残り85%はレンジ。だからトレンドの方向の見極めが最難関
- 「自分の個性に合う」「心地よい」を基準に選ぶのは危険。心地よいトレードは儲からないことが多い
- 長期トレンドは大金・大ドローダウン・低勝率・高ペイオフ・心理的につらい。20〜30銘柄が要る
- 短期スイングは少額・小ドローダウン・高勝率・低ペイオフ。ただし取引費用がかさむ。心理的には楽
- 資金に限りがある個人には短期スイングが現実的。最終判断は個性ではなく期待値・機会・検証で行う
06どの土俵で戦うかを決める ― トレードする市場の選び方第6章・原則4
勝ちやすい市場には共通点がある。著者が指数と通貨を選ぶ理由
この章のテーマは「どの市場で戦うか」だ。野球がうまくても土俵で相撲を取れば勝てない。トレードも同じで、戦う場所選びが勝敗を大きく左右する。著者ブレント・ペンフォールドは、自分が好んで指数(日経平均のような株価指数)と通貨(為替)でトレードする理由を、市場の良し悪しを見分ける条件として整理してくれている。
市場の条件は大きく2つに分かれる。まず最低限満たすべき「取引関連リスクをうまく管理する条件」、その上で揃っていてほしい「良いトレーディングの条件」だ。生き残ることが第一目標だから、まずリスク管理の条件から見ていく。
ここが核心。市場は「自分が勝ちやすいルール」で選ぶ。著者は、これから挙げる条件の大部分を満たす市場こそ検討する価値があると言う。条件を多く満たすほど、生き残れる可能性が上がる。
取引関連リスクをうまく管理する条件
まずは「ここで戦って大丈夫か」という安全面のチェックだ。利益を狙う前に、お金を取りこぼさず、ちゃんと出入りできる市場かを確かめる。著者は6つの条件を挙げている。
1つめは価格と出来高の透明性。全参加者に値動きと売買量がすべて見えている状態のことだ。トレードで起きていることを残らず把握でき、その情報を信じて判断できるか。著者いわく、一番良いのは「1つの市場でしか取引されていない証券」。取引場所が1つなら、いつ売買しても最良の価格を受け取れる。逆に、よそで大口が裏で取引していて出来高を隠せるような場所は避けるべきだ。
2つめは流動性。買い手・売り手が常にたくさんいて、ポジション(持っている建玉)をすぐ手仕舞いできるか、という性質だ。手仕舞いとは持っている取引を閉じて現金に戻すこと。逃げたいときにすぐ逃げられるだけの厚みがあるかを見る。
3つめは24時間取引。優れた市場は休まず動く。本当に丸24時間止まらないのは、世界中の銀行が常に値段を出し合う外国為替(OTC=銀行間の相対取引)市場だ。一方、シカゴ商業取引所(CME)の電子先物は1日23時間で、1時間だけ閉まる。なぜ大事かというと、自分のポジションが不利になったとき、夜中でも手仕舞えるかが安全に直結するからだ。
4つめは安全な取引相手。勝っても相手がお金を払えなければ意味がない。先物では清算機関が間に入って取引の履行を保証するので、相手の信用を心配しなくてよい。だが他の証券はそうとは限らない。株を買えばその会社の倒産リスクがあり、FX(外国為替証拠金取引)やCFD(差金決済取引)、英国のスプレッドベッティングでは、業者そのものが資金繰りに行き詰まらない保証はない。
5つめは公正で効率的な取引市場。明確なルールがあり、運営が誠実かということだ。先物は取引所が規制されており、取引所も業者(先物ブローカーや投資顧問)も参加者保護のための手続きに従う。彼らは自分の都合でルールを変えられない。
株式市場は思われているほど公正・効率的とは限らない、と著者は釘を刺す。2008年の世界金融危機では世界中の取引所が空売りを禁止した。もしそのとき株のトレーダーだったら、儲ける機会の半分を一方的に奪われていた。ルールが途中で変わりうる土俵は、それ自体がリスクだ。
6つめは安い取引費用。スリッページ(注文した値段と実際に約定した値段のズレ)と手数料は、利益の取り分(期待値)を確実に削る。費用が小さいほど期待値は上がり、生き残りやすくなる。
| 比べるもの | 先物(豪SPI指数先物) | 株式ポートフォリオ |
|---|---|---|
| 1回の往復コスト | 50ドル以下 | 468.75ドル(0.15%×往復) |
| 週1回・年間の手数料 | 約2,600ドル | 約24,375ドル |
上の表は、15万6250ドル相当(指数6250、1ポイント25ドル)で同じ規模を売買したときの比較だ。年間の手数料は株式が先物の約9倍。同じ値動きを取りにいくなら、コストの軽い土俵のほうが圧倒的に有利だと一目で分かる。
良いトレーディングの条件
安全面を満たしたら、次は「ちゃんと稼げる土俵か」を見る。著者はここで8つの条件を挙げる。一つずつ、初心者向けにかみ砕く。
ボラティリティ(値動きの大きさ)。値が動かなければ利益も出ない。「トレードできるだけの値動きがあるか?」が問い。著者の考えでは、世界で最も値動きが大きい2大ジャンルが指数と通貨だ。
調査。下調べなしのトレードはばくちと同じ。「ルールを検証できるだけのヒストリカルデータ(過去の値動きの記録)があるか?」を確かめる。理想は、データを半分に分けられるほど大量に集めること。前半でルールを作り(バックテスト=過去データでの検証)、後半でフォワードテスト(取っておいた別期間で答え合わせ)をして実力を確かめる。著者のTEST手順そのものだ。
簡単さ。「その銘柄は簡単に監視できるか?」。20〜30銘柄を追うより1銘柄に集中するほうが楽だ。今はネットとデータ提供業者のおかげで、ワンクリック・数分で100以上の銘柄データを落とせる。日々の値動きを無理なく追える対象を選ぼう。
空売りのたやすさ。空売りとは、持っていない証券を先に売り、値下がりしたら買い戻して差益を狙う手法だ。「いつでも無条件に空売りできるか?」が問い。規制された取引所の先物・オプション、それにFXでは空売りを妨げるものはない(取引所の値幅制限に達しない限り)。一方、株式は別。2008年には多くの取引所が、特に金融株の空売りを禁止した。
特化。資金に限りのある個人は、あれこれ手を広げず少数の似た市場に絞るほうが資金的に楽だ。「その市場に特化して、自分の知識を活かせるか?」。指数・通貨・金利・エネルギー・貴金属・穀物・畜産といった単一の市場部門に絞れば、その分野の知識を武器にできる。
機会。プラスの期待値を持つルールがあっても、出番がなければ口座は増えない。「その銘柄に十分な取引機会があるか?」。流動性と値動きが十分なら機会も多い。ただし自分のスタイルも考慮を。長期のトレンドトレーディングは、短期のスイングトレードより仕掛けの回数が少ないことを忘れないこと。
拡大。仕掛けたいときに入り、楽に手仕舞えるほど大きな市場が必要だ。さらに、口座資金が増えたらポジションを増やせるだけの大きさも要る。「ポジションを大きくしても呑み込めるほど、1日の出来高は多いか?」。これも、市場に厚い流動性が要る大事な理由の一つだ。
レバレッジ。少ない資金で大きな額の取引ができる仕組みのこと。これにより、普通なら手が届かない市場でもトレードできる。「額面の何分の1かの資金で取引できるか?」。先物・オプション・ワラント・FX・CFD・スプレッドベッティングは、いずれも額面の一部の資金で取引できる。
レバレッジは利益も損失も同じ倍率で膨らませる。少額で大きく動かせる魔法ではなく、損失も増幅される諸刃の剣だと心得ておく。
まとめ ― 条件のほとんどを満たす市場を選ぶ
適切な市場を選ぶことが、トレードで生き残れるかどうかを左右する。だからこの章の条件のほとんどを満たす市場を選ぼう、というのが著者の主張だ。
- 最低条件(リスク管理):透明性・流動性・24時間取引・安全な取引相手・公正で効率的・安い費用
- 良い条件:ボラティリティ・調査用データ・簡単さ・空売りの自由・特化・機会・拡大余地・レバレッジ
- 著者自身は、これらをすべて満たすと考える指数と通貨先物でトレードしている
- ただし「あなたは別の市場を好むかもしれない」とも。最後は自分のスタイルに合う土俵を選ぶ
この章の持ち帰り:まず「安全に出入りでき、お金を取りこぼさない市場か」を確認し、その上で「値が動き、機会が多く、自分が特化できる市場か」を確かめる。条件チェックリストを使えば、感覚ではなく根拠で土俵を選べる。
07トレードを支える3本の柱 — 資金管理・売買ルール・心理第7章・原則5
勝つトレーダーが必ず立てている、3つの土台の全体像をつかむ章

この章で分かるのは、トレードで成功するために欠かせない「3本の柱」の全体像だ。原則5にあたるこの3つは、資金管理・売買ルール・心理。著者は5つの普遍的な原則のなかでも、これを最も重要だと位置づけている。
3本の柱は、いわば建物を支える3本の太い柱のようなもの。どれか1本が欠けても建物は傾く。実際のトレードで最も大切な部分はここにある、と著者は言い切る。
ここが核心。トレーダーの成功は最終的に「銀行残高」で測られる。つまり頭の良さや知識量ではなく、口座のお金が増えたかどうかがすべて。3本の柱はその結果を生むための土台だ。
3本の柱の全体像
3本の柱とは、資金管理(お金の張り方)・売買ルール(いつ買って売るかの指示)・心理(自分の感情との付き合い方)の3つ。この章では各柱をざっと眺め、続く第8章・第9章・第10章でそれぞれ詳しく掘り下げていく構成になっている。
著者には重要度の順番についてはっきりした考えがある。1番が資金管理、2番が売買ルール、3番が心理だ。多くの人は「トレードは結局メンタルが9割」と言うが、著者はそうは考えていない。
| 柱 | 役割 | 重要度 | 詳しく学ぶ章 |
|---|---|---|---|
| 資金管理 | 1回いくら賭けるか。生き残りと成功の土台 | 最も重要 | 第8章 |
| 売買ルール | いつ仕掛け、いつ手仕舞うかの具体的な指示 | 2番目 | 第9章 |
| 心理 | 欲や恐れに流されず計画を実行する力 | 3番目 | 第10章 |
初心者がやりがちな誤解。「メンタルさえ鍛えれば勝てる」と考えて手法やお金の管理を後回しにすること。著者の見立ては逆で、土台はまず資金管理と売買ルールにある。
資金管理 — 生き残りと成功の秘密
資金管理とは「1回のトレードに資金のどれくらいを賭けるか」を決めるルールのこと。著者はこれが3本の柱のなかで最も大切だと考える。なぜなら、まず生き残れなければ話にならないからだ。
生き残ることができれば破産を免れる。そのうえで成功すれば笑顔でいられる——という順番だ。どんなに良い手法でも、賭け方を間違えれば一度の連敗で退場してしまう。
第8章では、資金管理の代表的な7つの戦略を検討する。OCRからは固定リスク額・固定資金・固定比率・固定ユニット数・ウィリアムズの固定リスク率・固定ボラティリティといった名前が読み取れる(訳語は第8章で正式に整理される)。今はまず「賭け方には複数の型がある」とだけ押さえておけばいい。
売買ルール — 日々の闘いの指示書
売買ルールは、毎日の相場という闘いのなかであなたに出される「指示」だ。期待値(=長期的に見て勝ちが見込めるかの根拠)をよりどころに、どうトレードするかを明確に言葉にしたものだと著者は説明する。
売買ルールは2つの要素から成る。1つはセットアップ。これは支持線(下げ止まりやすい価格帯)や抵抗線(上げ止まりやすい価格帯)になりそうな水準を見極め、いつ・どちらに(買いか売りか)仕掛ければよいかを判断する部分だ。
- セットアップ:どこで・どちらに仕掛けるチャンスかを見極める
- トレード計画:そのセットアップを使って、どう仕掛け・どこに損切りの逆指値を置き・どう手仕舞うかを決める
ポイントは「明確で、あやふやでない指示」であること。仕掛け・損切り・手仕舞いの3点が迷いなく決まっていれば、相場の最中に判断でブレずに済む。第9章では、この売買ルールの構成要素を分解していく。
心理 — 3本の柱をまとめる接着剤
最高の資金管理と売買ルールを持っていても、それだけでは足りない。自分の感情に対処する計画が必要になる。心理は3本の柱をまとめる「接着剤」だと著者は表現する。
望み・強欲・恐れ・苦しみといった感情に振り回されると、成功への道から外れてしまう。相場の逆境で苦痛を味わい続けると、最後までやり抜こうという決意も揺らいでくる。第10章では、この感情をどうコントロールするかを扱う。
著者の比喩。実際のトレードは料理に似ていて、従うべきレシピ(=3本の柱に基づく計画)がある。レシピどおりに作れば資産目標の達成を助けてくれるが、レシピから外れれば目標も狂ってしまう。
この章のまとめ。(1)成功には資金管理・売買ルール・心理の3本の柱が要る。(2)重要度は資金管理>売買ルール>心理の順。(3)生き残りの土台が資金管理、行動の指示書が売買ルール、それらを実行し続ける接着剤が心理。次章からは各柱を1つずつ深掘りしていく。
08資金管理 ―― 「いくら賭けるか」が生き残りを決める第8章
勝てば増やし、負ければ減らす。トレーディング3本柱の1本目を学ぶ

この章で学ぶのは「資金管理」、つまり1回の取引にいくら投じるかのルールだ。著者ブレント・ペンフォールドはこれを、生き残るための最大の武器であり、トレーディング3本柱の1本目だと言い切る。儲ける技術ではなく、破産を避けて市場に残り続けるための技術だと考えてほしい。
資金管理の本質はびっくりするほど単純だ。損失が出たらポジションを減らし、利益が出たらポジションを増やす。たったこれだけ。難しい計算より、この向きを守ることがすべての出発点になる。
なお原著者は先物トレーダーなので、本文では「枚数」という言葉が出てくる。これは株なら株数、FXなら取引量と同じで、要は「ポジションの大きさ」のこと。枚数を増やす=ポジションを増やす、と読み替えれば問題ない。
マーチンゲール法による資金管理 ―― 負けたら倍賭けという罠
マーチンゲール法は「負けたら枚数を増やし、勝ったら減らす」やり方。損したぶんを倍賭けで取り返そうという、ギャンブラーの直感に訴える発想だ。一見もっともらしいが、これは破滅への道だと著者は断言する。
「負けた次は勝つはず」という保証はどこにもない。勝つ確率も負ける確率も常に50%。負けが続くあいだに賭け金を膨らませると、利益が出る前に資金が尽きて破産する。マーチンゲール法はギャンブラーに任せておけばいい。
逆マーチンゲール法による資金管理 ―― 正しいのはこっち
逆マーチンゲール法は、負ければ枚数を減らし、勝てば枚数を増やす。先ほどの逆向きだ。これがトレーディングで唯一正しい資金管理の考え方で、この章で紹介する7つの戦略はすべて逆マーチンゲール法に属する。
逆マーチンゲール法には2つの特徴がある。ひとつは勝ちが続くと利益が幾何級数的(雪だるま式)にふくらむこと。もうひとつは負けが続くと「非対称のレバレッジ」に苦しむことだ。
非対称のレバレッジとは「損は取り返すのが大変」という性質のこと。10%損したら取り返すのに10%以上の利益が必要。50%失うと、元に戻すのに100%(2倍)のリターンがいる。30%の損失なら43%の利益が必要だ。損は浅く抑えるほど復帰が楽になる。
カギとなる考え方 ―― 自信の度合いで戦略を選ぶ
第一の考え方はリスク管理。どんなに検証した売買ルールでも将来の成績は予測できないし、相場の動きも操れない。自分がコントロールできるのは「1回の取引でどれだけリスクをとるか」だけ。それを決めるのが資金管理だ。
第二の考え方は予想パフォーマンス。純資産曲線(資金の増減グラフ)が安定しているほど、積極的な戦略を選べる。自信があるなら利益を伸ばす戦略を、慎重なら資金を守って破産確率を最小にする戦略を、その中間ならバランス型を選ぶ。
資金管理に「これが正解」という戦略はない。唯一の正解は『逆マーチンゲール法を使うこと』だけ。あとは自分のリスク許容度に合わせて調整したり、2つを組み合わせたりしてよい。ただし、資金管理が万能だと勘違いしないこと。土台はあくまでプラスの期待値を持つ売買ルールだ。
資金管理の由来 ―― ラリー・ウィリアムズの逸話
資金管理を世に広めた先駆者がラリー・ウィリアムズだ。彼はケリーの公式をトレードに応用し、1987年のロビンスワールドカップで1万ドルを12カ月で110万ドルに増やした。これは今も破られていない記録だ。
ウィリアムズの口座は1万ドルから210万ドルまで急騰したあと、70万ドルまで急落した。彼が痛感したのは『乱高下の元凶は勝率でも損益レシオでもなく、最大の負けトレードだ』ということ。大きな1回の負けこそ、資金管理で手なずけるべき悪魔なのだ。
逆マーチンゲールの諸戦略の概観 ―― 7つの戦略を同じ土俵で比べる
著者は7つの戦略を、自作の通貨取引システム『フォレックストレーダー』に当てはめて比較する。同じ売買ルール(サンプル期間で362回以上の仮想トレード)に各戦略を適用するので、純粋に資金管理の差だけが見える。現実味を出すため、最大取引枚数は100枚に制限している。
- 固定リスク額
- 固定資金
- 固定比率
- 固定ユニット数
- ウィリアムズの固定リスク率
- 定率
- 固定ボラティリティ
資金管理なしで1枚トレードする例 ―― 比較の基準
まず資金管理を使わず、毎回1枚だけ取引した場合を基準にする。当初資金2万ドルで、純利益は25万5100ドル(手数料・スリッページ各50ドル控除後)。最悪のドローダウンは1万3638ドル(率にして9%)。1ドルの痛みに対し19ドルの利益という良好な比率だ。以降の戦略はこの25万5100ドルと比べる。
固定リスク額による資金管理 ―― 資金が少なくても始められる
1回の取引でとるリスクを一定額に固定する方法。固定リスク額=口座残高÷ユニット数。例では2万ドル÷40ユニット=500ドル。リスクが500ドル以下の取引しか行わない。取引枚数=固定リスク額÷1回のトレードリスクで計算する。
この方法は資金管理の本来の目標を達成できない。負けても枚数を減らさず、勝っても増やせない(例では上限2枚)。さらに500ドル制限のせいで195回のシグナルを見送る羽目になり、利益は15万1538ドルと1枚取引(25万5100ドル)を下回った。ただし各取引のリスクを識別できる点と、少額資金でも始められる点は利点だ。
固定資金による資金管理 ―― 最速で枚数が増えるが、もろい
資金の一定額(例では1万5000ドル)ごとに1枚を取引する。取引枚数=口座残高÷1枚当たり固定ユニット額。固定ユニット額は最大ドローダウン÷許容リスク率で決める。枚数が上がるほど1枚あたりに必要な利益が減るため、最速で枚数を積み上げられる。
その結果、フォレックストレーダーは1枚取引の25万5100ドルが1800万ドル超へと跳ね上がった。これぞ幾何級数的な利益だ。しかし大きなリターンは大きなリスクの裏返しで、ドローダウンも22%(約136万ドル)に達した。
固定比率による資金管理 ―― 土台が揺るがない堅実型
ライアン・ジョーンズが考案した方法。「デルタ」という金額を使い、現在の各枚数すべてでデルタ分の利益が出たら1枚増やす。例ではデルタ=ドローダウン1万4000ドル+当初証拠金4000ドル=1万8000ドル。どの水準でも1枚あたり同じ努力(デルタ分の利益)が必要なため、口座の基礎が揺るがない。
純利益は150万ドル超。固定資金の1800万ドルには及ばないが、1枚取引の25万5100ドルは大きく上回る。利益対ドローダウンは10対1で、デルタを半分(1万1000ドル)に下げると純利益は60%以上増えた。
1800万ドルか150万ドルか ―― 利益の大きさより破滅への強さ
利益だけ見れば固定資金(1800万ドル)が固定比率(150万ドル)に圧勝。だが「1枚あたり1万ドルの破滅的な損失」が7枚保有時に起きたらどうなるかを比べると、評価は逆転する。
| 項目 | 固定資金 | 固定比率 |
|---|---|---|
| 破滅的損失後のドローダウン | 58%(ほぼ破産) | 13%(余裕あり) |
| 元に戻すのに必要な利益 | 140% | 15% |
| 再開時の枚数 | 3枚から | 7枚のまま |
固定資金は枚数を増やす労力が減りつづける「投機的な仕組み」で、破滅的損失が来ると一気に崩れる。固定比率はどの水準でも同じ労力(デルタ)を要求するから、本物の資産という手応えがあり、損失にも持ちこたえる。だから利益が小さくても固定資金より望ましい。
固定ユニット数による資金管理 ―― 損失後も威力を保つ
固定リスク額の発展形。トレードしたいユニット数(例では30、最低でも20)を決め、口座残高÷ユニット数で1取引のリスク額を出す。口座が増えればリスク額を計算し直して増やすが、負けているときは減らさない。取引枚数=リスク額÷トレードリスク。
勝っているときに枚数を増やせる(=資金管理の目標の半分は達成)が、負けても減らさない(=もう半分は未達)。最大100枚に達し、純利益は2200万ドル超、最大ドローダウンは32%。破滅的損失でも7枚を保てるので、ドローダウンから素早く戻れるのが大きな利点だ。
ウィリアムズの固定リスク率による資金管理 ―― 元祖の手法
ラリー・ウィリアムズ本人の公式。取引枚数=リスク額÷最大損失、リスク額=口座残高×リスク率。例えば3万ドルの口座でリスク率10%なら、1取引で3000ドルまで失う覚悟。最大損失が2563ドルなら1枚だけ取引できる。負ければリスク額が減って枚数も減り、勝てば増える――目標を両方達成する。
純利益は1300万ドル超、最大ドローダウン17%。破滅的損失でも34%のドローダウン(回復に52%)で、2枚分しか落ちず5枚で続けられる。欠点は資金が少ないと始めにくいことだ。
定率による資金管理 ―― プロが最も好む堅実派
口座残高の一定割合(例では2%)に損失を抑える。取引枚数=(定率×口座残高)÷トレードリスク。プロのトレーダーが最もよく使う戦略で、破産確率を下げる効果が抜群だ。難しい戦略を理解できなくても「勝者にならって」これを使うのが堅実。
| 1取引でとるリスク率 | 破産までに必要な連続負け数 |
|---|---|
| 5% | 104回 |
| 4% | 130回 |
| 3% | 174回 |
| 2% | 263回 |
| 1% | 528回 |
| 0.5% | 1058回 |
リスク率を下げるほど、破産までに耐えられる連敗数が劇的に増える。多くのプロはリスクを1%未満に抑える。1%なら528回連敗しても生き残れる計算だ。プロは『どれだけ稼ぐか』ではなく『どれだけうまくリスクを管理するか』に集中している。
純利益は1900万ドル超、最大ドローダウン19%。破滅的損失でも35%のドローダウンにとどまり、2枚分落ちて5枚で再開できる。欠点は資金が少ないと始めにくいこと(1万ドルの2%=200ドル以下のシグナルは稀)。
固定ボラティリティによる資金管理 ―― 相場の荒れ具合で調整
相場の変動率(ボラティリティ)を口座残高の一定割合に抑える方法。取引枚数=(定率×口座残高)÷ボラティリティ。ボラティリティは10日ATR(真の値幅の平均)などで測る。リチャード・デニスがタートルズに教えた手法でもある。
この戦略だけができる特技がある。相場が荒れて危ないときは自動で枚数を減らし、落ち着けば増やす。つまり相場のリスクそのものを管理できる。純利益は840万ドル超、最大ドローダウンは21%。破滅的損失でも23%、1枚分落ちるだけで6枚で再開できる。
どの資金管理戦略を選ぶべきか ―― 万能の正解はない
優れた戦略を数値だけで選ぶ確かな指標はない。著者は「ペイオフ値=純利益÷ドローダウン額」を判断材料のひとつに使う。ドローダウンの痛み1ドルあたり何ドルの利益が返るかを見る考え方だ。
| 戦略 | 純利益(概算) | ドローダウン率 | 破滅的損失への強さ |
|---|---|---|---|
| 固定リスク額 | 15万ドル(最少) | 低い | 強い(が利益が出ない) |
| 固定資金 | 1800万ドル | 22%/破滅時58% | 弱い(ほぼ破産) |
| 固定比率 | 150万ドル | 12% | 非常に強い(回復15%) |
| 固定ユニット数 | 2200万ドル | 32% | 損失後も7枚維持 |
| ウィリアムズ固定リスク率 | 1300万ドル | 17% | 強い(回復52%) |
| 定率 | 1900万ドル | 19% | 強い(回復54%) |
| 固定ボラティリティ | 840万ドル | 21% | 非常に強い(回復30%) |
破滅的損失への耐久テストは役立つが、実際にもっと多いのは『負けが長く続く状況』だ。そこではウィリアムズの固定リスク率・定率・固定ボラティリティが固定比率より望ましい。破産確率を最小にできるからだ。だからプロは定率を好む。資金が少ないなら固定比率か固定ユニット数、増えてきたら定率系へ切り替えるのが王道。
判断は自分のリスク許容度しだい。慎重を選ぶなら固定ユニット数より固定比率(損失時のドローダウンが小さくブレも少ない)。利益のスピード重視なら固定ユニット数(最速でデータの26%以内に100枚到達)。安定重視なら定率(100枚制限下で最高の純利益・ドローダウン比率14)。
エクイティモメンタムを使う ―― 撤退の早期警報
資金管理は破産を避ける武器だが、売買ルールが壊れた(プラスの期待値がマイナスに転落した)瞬間を教えてはくれない。そこで純資産曲線の勢い=エクイティモメンタムを監視する。曲線が不安定になり始めたら、戦略が完全に死ぬ前に逃げるための早期警戒シグナルになる。
具体的な道具が「システムストップ」だ。損切りの逆指値が個々のトレードを守るように、システムストップは売買ルールそのものを守る。役目は3つ――いくら失ったら中止するかを示す/やめどきを見極める/再開どきを見極める。
- 純資産曲線は必ず『1枚(同じサイズ)』で作る。資金管理を当てはめると売買ルール本来のエッジが見えなくなる
- 曲線は仮想トレードの履歴・検証中の30通シミュレーション(TEST)・リアルタイム仮想トレードの3要素で作り、常に更新する
- システムストップの例:リスク資産限度(例1万ドル)、前回のドローダウン額や率、直近40トレードの最安値を追う利益チャネル、純資産曲線の移動平均など
- 曲線がシステムストップを下抜けたら停止、上抜けたら再開。これはメカニカルでも裁量でも使える
システムストップは収益を最大化する道具ではない。むしろ収益は減る。近すぎると最高の勝ちトレードの直前にやめてしまうこともある。だが素晴らしい1回を逃すのは、良いリスク管理のための小さな代償だ。成功は『良いトレーダーだから』ではなく『生き残ったから』であることを忘れないこと。
まとめ ―― 3本柱の1本目を終えて
この章のまとめ:資金管理は破産リスクを避ける最大の武器であり、トレーディングの目的は生き残ること。正解は逆マーチンゲール法を使うことだけ。7つの戦略(固定リスク額・固定資金・固定比率・固定ユニット数・ウィリアムズの固定リスク率・定率・固定ボラティリティ)から、自分の資金量・リスク許容度・破産への嫌悪度に合うものを選ぶ。そこにシステムストップ(エクイティモメンタム監視)を組み込めば、資金管理はさらに賢くなる。基本はただひとつ――勝てばポジションを増やし、負ければ減らす。
09売買ルール — 「いつ買い、どこで損切り、どこで利確するか」の設計図をつくる第9章
勝ち負けを分けるのは秘伝の手法ではなく、単純で客観的な「迷わないルール」だ

この章のテーマは「売買ルール」。トレードの専門用語で言えば、相場のどこで仕掛け(エントリー)、どこに損切りの逆指値(=これ以上下がったら自動で売って損を確定させる注文)を置き、どこで利益を確定して手仕舞うか、を前もって決めた取り決めのことだ。著者ペンフォールドは、勝てる売買ルールは複雑な秘伝ではなく、むしろ単純で客観的なものだと繰り返す。この章を読めば、自分なりのルールをどう組み立て、何を信じて何を疑うべきかの全体像がつかめる。
裁量トレードかメカニカルトレードか
まず最初の分かれ道。ルールにどれだけ「自分の判断の余地」を残すかだ。裁量トレードは柔軟なルールで、最後に「やるか・やらないか」を自分で決める。メカニカルトレードは厳密なルールで、シグナル(売買の合図)が出たら機械的に全部実行し、外れることは許されない。
| タイプ | 特徴 | 気持ちの負担 |
|---|---|---|
| 裁量トレード | 柔軟。最終的にトレードするか自分で決められる | 絶えず判断するので精神的に疲れやすい |
| メカニカル | 厳密。シグナルどおりに全部執行、迷う余地なし | 決めることが無いのでバランスを保ちやすい |
| 裁量的メカニカル | 体系的なルールを作るが、いつ従うかは自分で判断 | プロが行き着く上級型 |
著者の勧め:これから始める人は、まずメカニカルか、非常に厳密な裁量ルールから入るとよい。一貫性と規律という、成功に不可欠な土台がそこで鍛えられる。一生メカニカルでなくてもいいが、最初の確固たる基礎になる。
売買ルールを作る
売買ルールの核心はこうだ。「支持線(価格が下げ止まりそうな水準)や抵抗線(上げ止まりそうな水準)になりそうな所を見極める」こと。そこが守られなかった証拠の位置に損切りを置き、守られれば利益を取る。スタイルは2つ、トレンドに沿う順張りと、逆張り(スイングトレード)。著者はまず順張りから作ることを勧める。合言葉は「単純であれ」。
陥りやすい罠:完璧な仕掛けの手法を延々と探し回ること。財布も精神もすり減らす。手法は数多いが(ファンダ分析、テクニカル分析、ロウソク足、ブレイクアウト、フィボナッチ等)、どれにエッジ=優位性があるかは自分で検証するまで分からない。本やセミナーで聞いたからといって真実とは限らない。
競い合う理論=予測者・夢想家・現実主義者の3グループ
著者は分析の流派を3つに分ける。予測者(占星術・サイクル・エリオット波動・ギャン等)は「相場の転換点を当てられる」と信じる派。だが天井・底を当てようとして初心者が必ず陥る罠にハマり、将来に気を取られて今を見失う。著者自身も最初の15年はエリオット波動の信奉者だったが、利益は生めなかったと白状する。
- 予測者:相場の方向を当てられると信じる派(エリオット波動、ギャン、占星術、サイクル、フラクタル、ファンダ、幾何学パターン)
- 夢想家:テクニカル指標を使う派(移動平均線、MACD、RSI、ストキャスティックス、ADX、DMI 等)。指標の多くは価格の派生物で、調整できる変数を含み、相場に遅れる
- 現実主義者:ブレイクアウト・チャート分析・ダウ理論・ピボット・統計分析・出来高分析など。著者は1998年以降ここに属する
すべての指標が悪いわけではない
著者は主観的な指標に厳しいが、全部が悪いとは言わない。指標ベースでも成功するルールはある。ただし最も成功するのは「変数が1つの指標を1つだけ使う」単純なもので、広い範囲の変数値で利益を生む。変数(調整できるパラメータ)が増えるほど、過去データに都合よく合わせる「カーブフィッティング(こじつけ)」のリスクが膨らむ。
裁量と客観のいいとこ取り:アドバンスト・ゲットのようにソフトが独立して波動を数えセットアップを探すプログラムなら、出荷時の変数を一切いじらず固定して扱えば、主観的だが客観的に一貫した結果が得られる。コツは『触らないこと』。
だが、マーケットは変わらないのか
「相場は変化するからルールも柔軟であるべき」という有力な一派がいる。著者の答えは「両方とも正しく、両方とも間違っている」。確かにレンジ相場(方向感なく上下する相場)とトレンド相場を相場は行き来する。だが、よく設計された単純なルールは、多くの市場で長期的に利益を出せると著者は考える。状況ごとに戦略を切り替えられる達人はいるが、それはほとんど見えない伝説級の少数派だ。
複数の売買ルール
もう一つの解決策が、順張り(トレンド)と逆張り(スイング)の2つの独立して補い合うルールを持つこと。一方が苦しい時期にもう一方が稼ぐので、口座残高(純資産曲線)の動きが滑らかになる。慣れたら時間枠も短期・長期へ広げ、戦略を多様化していく。
トレンドトレーディングの重要な4つの事実
- ①トレンドに沿うのが最も安全。逆張りは大物でも成功するが本質的に危険で難しい
- ②相場が動くのはトレンドがあるから。長く乗れるほど大きな利益のチャンス
- ③最も安全だが最も惨め。トレンドはまれにしか生まれず、勝てるのは約3回に1回。67%の時間は負けてドローダウンの中で過ごす
- ④基本手法は2つ:ブレイクアウト型(メジャートレンドを逃さないが損切りを離して置く)と、押し・戻り型(逃すこともあるが損切りを近くに置ける)
致命的な誘惑:損切りの逆指値を遠くに離して置くこと。一見ルールがきれいに見えるが、それは過去データに合わせているだけ。やがて最大の逆境(相場の最悪の連続)に追いつかれ、取り返しのつかない損失で破産ポイントに達する。損切りが近いほどポジションを大きくでき、資金管理が活きる。仕掛けこそ当初リスクを決める要、決して『仕掛けは重要でない』という都市伝説を信じてはいけない。
勝てる方法の基本的な特質(期待値の数字感)
期待値(1ドルのリスクで平均いくら稼げるかの期待)はこう計算する。勝率と損益レシオ(平均利益÷平均損失)の組み合わせで決まる。下の表は著者が示す範囲。トレンドトレーダーは最低でも勝率33%・損益レシオ3対1以上を目指せ、というのが目安だ。
| 勝率 | 平均利益 | 平均損失 | 1単位あたり期待値 |
|---|---|---|---|
| 33% | 3 | 1 | +32% |
| 50% | 3 | 1 | +100% |
| 50% | 2 | 1 | +50% |
| 33% | 2 | 1 | −1%(マイナス) |
勝てるルールの特質は、①体系と論理に基づく信念がある ②単純(複雑だと壊れやすい)③客観的で誰がやっても同じ結果 ④利益目標を使わず、損切りは近く・利確はゆっくり ⑤期待値がプラスでTESTで検証済み。トム・デマークは17人のプログラマーで4〜5年テストし「基本的な4〜5システムが最も有効だった」と語る。
指標がなぜ『劣ったツール』なのか — 鏡の皮肉
移動平均線・MACD・ADX・トレンドラインといったトレンド判断ツールには変数がある。同じチャートでも、入れる変数の値しだいで上昇とも下降とも横ばいとも解釈できてしまう。著者の比喩はこうだ——指標は『あなたが入れた値を映し返す鏡』。あなたは無意識に自分自身がツールになり、客観的な助言を得たつもりで自分の意見を聞いているだけなのだ。
| トレンドのツール | 変数の数 | 押し戻りのツール | 変数の数 |
|---|---|---|---|
| 移動平均線 | 1(=最良の部類) | フィボナッチ | 4(非常に大きい) |
| MACD | 3 | RSI | 3 |
| ADX | 3 | ストキャスティックス | 4(非常に大きい) |
| トレンドライン | 2 | ダブルトップ・ボトム | 2〜3 |
マイナス2つでプラスにはならない:主観的なトレンドツール+主観的な押し戻りツールを組み合わせると変数が爆発する(例:あるシステムは合計11変数!)。解釈の余地が大きすぎ、過去データにぴったり合わせた純資産曲線は将来すぐ崩れる。だから活発な取引者の90%超が負ける。
客観的なトレンドツールの一例 — スイングチャート
では何を使うか。著者の答えはスイングチャート。スイングの安値が切り上がれば上昇トレンド、高値が切り下がれば下降トレンド、と価格そのものだけで判断する。日・週・月・四半期・年の高値安値はどんな個人や機関も動かせないので、転換点は100%客観的で独立している。『12歳の子でも同じ解釈ができる』のが、いいツールの条件だ。
勝てる方法の例 — タートル流のトレーディング戦略
1980年代にリチャード・デニスらが訓練した有名なトレーダー集団タートルズの戦略。著者は「勝てる売買ルールの完璧な例」と呼ぶ。直近20期間(20日や4週)の高値・安値という、誰がやっても同じ客観的な数字を使い、40年以上も初期設定のまま機能している。
| 項目 | 買いシグナル | 売りシグナル |
|---|---|---|
| 仕掛け | 直近20期間の最高値をブレイクで買い | 直近20期間の最安値を切ったら空売り |
| 最初の損切り | ボラティリティ基準(20日ATR)、リスクは資産の2%に制限 | 同左 |
| 手仕舞い | 直近10期間の最安値を切ったら売り | 直近10期間の最高値ブレイクで買い戻し |
タートル流の唯一の弱点:多額の口座資金が要る。20〜30市場のポートフォリオで分散し、ドローダウンに耐える必要があるからだ。2007年には大きな利益を出した一方で75万ドルのドローダウンにも苦しんだ。
フィボナッチ — 事実か虚構か
押し戻りを測る最も人気の比率がフィボナッチ(38.2%、61.8%、78.6%、161.8%など)。だが選べる比率が多すぎて(調和比・算術比・ギャンの8分割もある)、どれが正しいのか?という主観の問題が生まれる。著者は18銘柄・複数時間枠で全3万6411スイングのリトレースメントとエクステンションを測り、度数分布を作って検証した。
| フィボナッチ比率 | 出現回数 | 出現割合 |
|---|---|---|
| 38.2% | 228 | 0.6% |
| 50.0% | 249 | 0.7% |
| 61.8% | 248 | 0.7% |
| 78.6% | 222 | 0.6% |
| 161.8%(黄金分割) | 87 | 0.2% |
検証結果:どの『魔法の』フィボナッチ比率も出現率は1%未満。分布はつり鐘型(正規分布)で、フィボナッチに特別なことは何もない。著者は『その無意味さを確かめるのに15年も費やした』と悔やむ。これこそアイデアを自分で検証する大切さの実例だ。
プラシーボトレーダー
ではフィボナッチで勝っている人がいるのはなぜ?著者の答えがプラシーボトレーダーという考え方。プラシーボ(偽薬効果)のように、彼らはフィボナッチを信じることでトレードする自信を得ている。実際に勝つ理由は比率のおかげではなく、彼らが優れたトレーダーだから——小さく賭け、素早く損切りし、ゆっくり利確しているからだ。
執行されるトレードはすべて4つの要素の関数だ:①セットアップ(買うか売るかの事前判断)②賢明な資金管理 ③トレード計画(仕掛け・損切り・手仕舞いのルール)④意志力(計画どおり実行する力)。著者個人は信念より測定できる事実に基づく自信を好むが、うまく負けてうまく勝てるなら、ポジションを取る理由は本質ではない、とも認める。
この章のまとめ
- 手法は裁量・メカニカル・裁量的メカニカルの3つ。初心者はまずメカニカルか厳密な裁量から始めると規律が身につく
- 完全な売買ルール=セットアップ(支持線・抵抗線探し)+トレード計画(仕掛け・損切り・手仕舞い)。仕掛けは重要、損切りを離して置く誘惑は命取り
- トレンドトレーディングは最も安全だが最も惨め(勝率約33%)。最低でも勝率33%・損益レシオ3対1を目指す
- 人気の指標は変数が多く主観的=鏡。客観的で『トレーダー不要』のツール(スイングチャート、タートル流)を選ぶ
- フィボナッチは統計的に有意でない。アイデアは必ず自分のTEST手順で検証してから使う
- 最終的に重要なのはトレード計画。検証済みのルールに資金管理を当てはめ、破産確率0%を目指す
10第10章 心理 — 希望・強欲・恐怖、そして「苦痛」を飼いならす第10章
心は接着剤。土台(資金管理と売買ルール)を整えてから、4つの感情とつき合う

この章のテーマは「心理」だ。トレードで成功するための3本の柱(資金管理・売買ルール・心理)の最後の要素にあたる。著者はあえて心理を3番目に置くが、軽んじているわけではない。むしろ心理は資金管理と売買ルールを束ねる「接着剤」だと考えている。この章では、トレード中にわき上がる4つの感情、希望・強欲・恐怖・苦痛をどうコントロールするかを学んでいく。
著者の独自の立場。世間では「心理こそ成功の最大のカギ」と言われがちだが、著者は逆。「まず資金管理と売買ルールを正しく整え、破産確率を0%にしてしまえば、心理は勝手に落ち着く」という考え方だ。心理は大切だが、土台が先、というスタンスを最初に押さえておこう。
接着剤(せっちゃくざい)とは、バラバラの部品をくっつけて1つにまとめる糊(のり)のこと。資金管理と売買ルールという2つの道具を、実際のトレードで一貫してやり抜くために結びつけるのが心理だ、という比喩だ。
その前に — 著者の心理に対する考え方
著者は「心理学の専門家ではない」と正直に断ったうえで、世間の主流の見方に異を唱える。主流の見方は「潜在意識(せんざいいしき=自分でも気づいていない心の奥)の限界を知り、その扉を開けば成功できる」というものだ。著者はこれを「バカげている」とまで言う。
著者の理解はこうだ。多くのトレーダーは、いくらセミナーや本で学んでも、実際には何が有効か分かっていない。その「無知」を潜在意識は見抜いている。だから心拍数を上げ、手のひらを汗まみれにし、トレードを止めようとする。これは正しい防御反応だ、という。
逆転の発想。潜在意識が不安を起こすのは「お前にはまだ勝てる根拠がないぞ」というシグナル。だから潜在意識を無理やり押さえ込むのではなく、その声を聞くべきだ。破産確率を0%まで下げて本物のエッジ(優位性)を持てば、潜在意識は安心して後ろに退き、計画通りに行動させてくれる。
著者は「10億ドル以上を運用するオーストラリア最大級のトレーダーを何人も知っているが、彼らは郊外に住む普通のビジネスマンにしか見えない。落ち着いていて、薬物にも依存していないし、潜在意識と格闘してもいない」と語る。心理が成功の最大の壁なら、彼らは自殺しかねない状態のはず。そうでない事実が、心理が最優先ではない証拠だという。
希望をコントロールする
希望(きぼう)は、トレード中に「自分は負けない、勝てる」と知らず知らず思い込むときに現れる。著者いわく、4つの感情のなかでは一番マシなほう。だが「うまくいく」と思っているときほど、ほぼ間違いなく負ける。
希望は、強制的に決済(損切り)される直前に生まれる最後のあがきだ。相場が損切りライン(逆指値)からさらに2〜3ティック逆に動くと、「あと少しで戻るはず」という希望は大きく膨らむ。負けにうんざりして、もう二度と負けたくないと願う心理だ。ティックとは値段が動く最小単位のこと。
なぜ希望にすがるのか。原因は2つ。(1)正しい資金管理を当てはめていない、(2)自分の期待値(長期的に1回あたりいくら稼げるかの平均)を知らない。要するに「暗闇でトレードしている」状態だ。口座に対して大きすぎる金額を張っているから、結果が怖くて希望にすがる。
解決法はシンプルだ。適切な資金管理でトレードサイズを小さくし、破産確率を0%に下げる。さらにTESTの手順(売買ルールの期待値を検証する手続き)を踏めば、エッジが確認できる。すると「次のトレードで勝つこと」を願うのをやめ、「ルールがまた仕掛けの機会を見つけてくれること」を期待するようになる。希望から期待へ、過程に集中するように変わる。
強欲をコントロールする
強欲(ごうよく)は「もっと欲しい」と思い始めたときに現れる。すると不安になり、「他人のほうがうまくやっている、自分は機会を逃している」と感じ、トレード回数を増やせばもっと稼げると錯覚する。
強欲の悪循環。もっと欲しくなる→衝動的にトレードする→証拠金取引(=自己資金以上の取引)に手を出す→損失が膨らむ→取り返そうとさらに無理をする。正気を取り戻すか口座が破たんするまで、回数を増やしながらこの渦は続く。証拠金取引とは、預けたお金を担保に何倍もの金額を売買すること。儲けも損も増幅される。
強欲の根っこは「今あるものに満足していない」精神的な混乱だ。目標と期待値があいまいだと生じる。混乱すると人は勝率100%を狙ったり、口座の50%〜100%超の利益を期待したりする。これが非現実的だ。
対策は「プロのような適度な目標」を設定すること。リスク資産に対するリターン目標を、たとえば年20%・30%・40%程度に現実的に決める。期待値(目標リターン)を上げるほどリスクも破産確率も上がることを忘れない。年末に目標を達成した自分を想像し、その満足感を覚えておくとよい、と著者は勧める。
恐怖をコントロールする
強欲を抑えられたら、次は負ける恐怖・失敗する恐怖だ。恐怖(きょうふ)は「知らないこと」から生まれる。将来が不確実で、自分にはコントロールできないのではという心配が源だ。
恐怖を抑えられないと、トレードの執行をためらったり、損切りラインをずらして傷を広げたり、利益を早く確定しすぎたりする。どれも計画を台無しにする行動だ。
恐怖を克服する唯一の方法は、立ち向かうこと。著者の核心テクニックはこうだ。「期待値は確実にマイナスだ」とあらかじめ覚悟する。つまり負けを先に受け入れてしまえば、将来の不確実さが消える。最悪を予想しておけば、シグナルに従うかどうか悩む必要がなくなり、すべてのセットアップ(仕掛け条件)で淡々とトレードできる。
著者は自らを「悲観主義者」と呼ぶ。具体的なやり方を2段階で説明している。
短期的にマイナスの期待値 — 負けを先に受け入れる
著者はトレードのたびに「自分は負ける、おそらく強制的に決済される」という前提で臨む。仕掛けるセットアップがある日は、相場が開く前に、予想損失額を損益スプレッドシートの借方(かりかた=支出側の記入欄)に先に書き込んでしまう。
これが恐怖を消す仕組み。実際に取引する前に損失を帳簿に記入することで、痛みを前もって受け止める。すると取引にまつわる感情が消え、恐れなくトレードできる。「自分が負けると思っていれば、実際に負けても損失の衝撃は小さい。だから可能なかぎり上手に負けられる。上手に負ければ長期的には勝者になれる」と著者は言う。
先物のプロである著者は、世界9つの株価指数(日経平均、香港ハンセン、DAX、ミニナスダック、Eミニ S&P500 など)と主要5通貨(ユーロ、英ポンド、日本円、スイスフラン、米ドルなど)を24時間・週5日半トレードし、平均で1日2回ほど執行する。その毎回に、この「負けを先に歓迎する」手続きを使っている。
中期的にマイナスの期待値 — 連敗とドローダウンを覚悟する
恐怖の覚悟は1回のトレードだけでは終わらない。著者は「これから負けトレードが最も長く続き、最大の損失をもうすぐ被る」と常に想定する。前のトレードで負けていたら「今は最悪のドローダウンの最中だ」と考える。ドローダウンとは資産が直近の山からどれだけ落ち込んだかを示す目減り幅のこと。
短期・中期ともに「確実にマイナスになる」と予想しておけば、将来の不確実さが取り除かれる。確実なものを自分で作ってしまえば、恐怖は消え、ためらいなく計画に従えるようになる。
苦痛をコントロールする — 著者が付け足す第4の感情
ここが著者の独自の貢献だ。世間では希望・恐怖・強欲は語られるのに、「苦痛(くつう)」はめったに触れられない。著者はそれを正したい。なぜなら、トレードの苦痛に対応できなければ、これまでの普遍的な原則すべてが見当違いになるからだ。
トレードはとにかく苦しい。トレンドトレーダー(相場の流れに乗る手法)は普通67%(約3分の2)で負ける。損をすれば傷つき、何カ月も損が続けば傷つく。利益が出れば「もっと持っていれば」と悔やんで傷つく。時間とお金をかけて調べたアイデアの期待値がマイナスでも傷つく。著者は「ほぼ100%が苦痛だ。極めて多くの水準で苦痛だ」と言い切る。
初心者が陥る罠。経験の浅いトレーダーは苦しむ覚悟ができていない。金儲けは簡単なはずだと思い込み、苦しみの気配が少しでも見えると尻込みする。苦しみを乗り越えることこそが成功の継続につながる、という事実に気づかない。頭痛薬では治らない。
著者が苦痛を和らげる方法は、これまでの総まとめでもある。下の表に整理した。
| 著者の苦痛対策 | 具体的にやること | なぜ効くか |
|---|---|---|
| メカニカルトレーダーになる | ルールに従い感情を交えず機械的に執行 | ビジネスのように扱え、損の痛みが鈍る |
| 小さくトレードする | 1回で口座の大きな割合をリスクにさらさない | 負けても「ちょっと迷惑」程度で済む |
| 損益帳簿に先に記入 | 注文前に予想損失を借方に書き、負けを歓迎 | 恐怖と苦痛を前もって受け止める |
| 相場を見ない | 注文後はチャートを閉じ、日中は別の作業で忙しくする | 細かな値動きを頭から締め出せる |
| 単純なルールを信じる | 堅牢で本物の相場パターンに賭けていると知っている | 起伏の多い資産曲線でも耐えられる |
著者は「これらは報われる」とも言う。大笑いするほどの利益ではなく、むしろ「がっかり」に近い感覚かもしれない。だが少なくとも利益は生む。それは「痛みを伴うあらゆる努力」への、決して悪くない報酬だ。
人の性(さが)。著者は何度も「あなたは私の助言の多くを無視して、いきなり全力で相場に飛び込むだろう」と予言する。ローソクの炎に指を突っ込んで初めて分かる子供のように、人はまず自分で失敗し苦しまないと、単純なアイデアの価値を理解できない。だからこそ、すぐ苦痛を避ける防壁(=控えめなサイズ・守りの姿勢)を築いておくべきだ。
最大の逆境を忘れない
最大の逆境(さいだいのぎゃっきょう)は必ず来る。これは第1章から繰り返される第一原則だ。控えめであり続け、これを意識して守りの姿勢を取り続ければ、苦痛に耐えられる可能性は高い。著者は『タートル流投資の魔術』(カーティス・フェイス著)の一節を引いて締めくくる。
まとめ
この章の核心。心理は3本の柱の最後の要素であり、資金管理と売買ルールをまとめる「接着剤」。著者は心理を最優先とは考えないが、生き残って成功するには不可欠だとする。トレード心理とは、希望・強欲・恐怖・苦痛という4つの感情をコントロールすることに尽きる。
- 希望 → 資金管理を正しく使い、売買ルールを設計・開発・検証(TEST)すれば和らぐ。「願う」のをやめ「期待する」へ。
- 強欲 → 期待を控えめに、現実的なリターン目標(例:年20〜40%)を設定すれば抑えられる。
- 恐怖 → 相場が開く前に損益帳簿の借方へ予想損失を記入し、負けに先に向き合えば消える。最悪を予想して立ち向かう。
- 苦痛 → 逃れる方法はない。メカニカルに、小さく、相場を見ずにトレードして和らげる。最大の逆境が必ず来ると認める。
これで実際のトレードの基本である3本の柱(資金管理・売買ルール・心理)の説明が終わる。次の章では、最後の普遍的な原則「トレーディングを始める」について、これまでのすべてが1つにまとまる。
11原則6 いよいよトレード開始 ― でも「退屈」なら正解第11章・原則6
6つの原則を1本の流れにまとめ、実際に注文を出す日課と注文の種類を学ぶ最終章
この章では、これまで学んだ5つの原則を1本の流れにまとめ、いよいよ実際にトレードを始める。毎日の作業の順番(日課)、ブローカーへの注文の出し方と種類、そして6つの原則の総まとめまでを扱う。ここまで来たあなたは、もう「スリル目当て」ではなくビジネスとしてトレードに向き合う段階にいる。
この章の意外な核心。トレードを始めて「思ったより簡単で、そのうち退屈で苦痛だ」と感じ始めたら、それは失敗ではなく成功のサインだ。個々の結果に一喜一憂しなくなった、つまりプロの仕事ぶりに近づいた証拠だからだ。
6つの原則のまとめ ― 始めると「退屈」になる理由
著者は読者にまず「ここまでついてきてくれてありがとう」と言う。学んできた内容はワクワクするものではなく、むしろ学校の勉強のようだったはずだ。それでも続けたなら、あなたは正しい目的地に着いている。
トレードを始めると最初は楽に感じる。だが繰り返しになり、退屈で苦痛にすら思えてくる。普通ならがっかりする場面だが、ここでは逆だ。それはトレードを「ビジネス」として、プロが仕事をこなすように淡々と実行できている証拠なのだ。
どんな仕事でも、自分のしていることが嫌になる瞬間は何度もある。トレードに腹が立ち始めたら、むしろ喜ぶべきだ。1回ごとの勝ち負けに無関心になった=ようやく適切な資金管理を体で覚えた、ということだから。意識が「結果そのもの」から「ビジネスをうまく運営する過程」へ移ったとき、あなたはプロのトレーダーになっている。
トレードを始めたら、毎日の作業は決まった順番でこなす。著者はこれを「日課」と呼び、これまでの原則の順に並べている。次の表が全体の流れだ。
| 順番(原則) | やること | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 売買ルール | セットアップ(仕掛けの合図)があるか確認 | あれば、仕掛けの値段・損切りの逆指値・手仕舞いをどう指示するか決め、1枚あたりのリスク額を計算する |
| 資金管理①(生き残る仕事その1) | 損失が資金限度内か確認 | 損失がリスク資産の限度を超えたら、トレードをやめて立ち去る時。超えていなければ続行 |
| 資金管理②(生き残る仕事その2) | システムストップを確認 | 1枚を基準にした仮想の資産曲線がシステムストップを上回っていれば注文を出す。下回っていれば取引せず、上回るまで待って再開 |
| 資金管理③(生き残る仕事その3) | ポジションサイズを計算 | 資金額から「何枚まで」買えるかを資金管理戦略で算出。決まったら自分の損失を歓迎する |
| 心理 | 予想する損失を先に書き、受け入れる | 損失をスプレッドシートの借方に記入。希望・強欲・恐怖・苦痛を抑える前向きな格言を読んでから発注へ |
資金管理②で出てくる「1枚を基準にした純資産曲線」は、3つの要素で作る。著者はこれを実際の発注を始める前のフィルターとして使う。
- 過去の値動きデータで回した仮想トレードの成績(ヒストリカル)
- 検証期間に集めたデータでシミュレーションしたトレード(著者の言うTEST)
- リアルタイムで紙の上だけで試した仮想トレードの結果
純資産曲線がシステムストップ(下げ止まりの目安ライン)を上回っているうちだけ実弾の注文を出す。割り込んだら、そのルール自体が今は壊れているサインなので手を止め、曲線がラインを回復するまで待つ。これが「生き残る」ための安全装置だ。
心理 ― 損を先に「歓迎」しておく
ポジションを持つなら「損をするもの」と最初から考えておく。著者いわく、トレードの唯一の本物の秘密は「負け方が一番うまい人が長期的に勝つ」こと。だから予想できる損失を先に帳簿の借方に書き込み、前向きな格言を読んで気持ちを整えてから注文を出す。
トレーディング(実際の発注)― チェックリストと注文の種類
いよいよ発注。ただし注文ボタンを押す前に、発注前チェックリストで以下を必ず確認する。確認できて初めて、損切りの逆指値まで含めてブローカーに注文を出せる。
- セットアップ(仕掛けの合図)が今あるか
- 仕掛けと損切りの逆指値の水準
- 手仕舞い(利益確定)の指示
- 1枚あたりのリスク額
- リスク資産が資金限度の範囲内か
- 1枚基準の純資産曲線がシステムストップを上回っているか
- ポジションサイズはどれだけか
これらを確認したら、予想する損失をスプレッドシートに記入し、その損失を受け入れ、前向きな格言を読む。すべて済んだら発注だ。ブローカーが受注を確認してくれたら、もう相場は忘れてよい。ネット取引なら、注文が受け付けられた画面のスクリーンショットを残しておく。
約定の連絡が来るまで待ち、約定したらトレード計画どおりにポジションを管理する。手仕舞ったら損益スプレッドシートと1枚基準の純資産曲線(スリッページは無視)を更新し、ブローカーの取引計算書と自分の記録を照合する。食い違いがあればブローカーと話し合う。
ここからは注文の出し方。買い・売りの一言だけでなく、用途別にたくさんの種類があり、最初は混乱しやすい。本書ではブローカーに「3月限のFT指数先物」を出す前提で例を挙げている。まず単純な注文から。
| 注文の種類 | ねらい | ざっくり言うと |
|---|---|---|
| 成り行き | とにかく今すぐ約定したい | 値段は問わず、その場の気配値ですぐ執行。例:3月限を1枚成り行きで売り |
| ベスト | 今すぐ、でも少しでも良い値で | 成り行きに近いが、時間と価格にブローカーの裁量が入る |
| 指値 | この値段でだけ取引したい | 例:6455から押し目の6445で買い。希望値に届かないと約定しない |
| 逆指値(ストップ) | 不利な動きから身を守る/節目で仕掛ける | トリガー値に達したら成り行きで執行。損切り(ストップロス)の定番。例:6464で買い戻し |
| ストップリミット | 逆指値+指値の合わせ技 | 6600の逆指値かつ6602の指値で買い。飛ばされると約定し損ねる弱点あり |
| MIT(マーケット・イフ・タッチト) | 薄商いで約定し損ねるのを防ぐ | 指定値に触れたら成り行きで執行。例:6480のMITで売り |
| 注文の種類 | タイミング | 使う場面 |
|---|---|---|
| 寄り成り(MOO) | 寄り付きに成り行き | 前夜の好材料などで寄りから買いたい。値段は問わない |
| 引け成り(MOC) | 引けに成り行き | 重要発表が気になり引けで手仕舞いたい |
| SCO(ストップ・クローズ・オンリー) | 引けのみ有効な逆指値 | 終値が6460以下なら引けで手仕舞い、のような条件付き |
| FOK(フィル・オア・キル) | 即時に全量約定しなければ取消 | 6449以下で寄れば売り、そうでなければキル(取消) |
| FAK(フィル・アンド・キル) | 約定した分だけ通し残りは取消 | 5枚売りで3枚だけ約定したら残り2枚は取消 |
次は複数の条件を組み合わせる「条件付き注文」。一段複雑だが、相場が動いてから仕掛けたい・自動で守りたいときに役立つ。
| 注文の種類 | しくみ | 例 |
|---|---|---|
| エクスパンションオーダー | 寄り付き後に一定幅動いたら仕掛ける | 始値マイナス10ポイントの逆指値で売り(確認してから入る) |
| イフダン | 前の注文が成立したら次が有効になる | 空売りが約定したら、始値プラス10ポイントの逆指値で買い戻し(自動の損切り設置) |
| OCO(ワン・キャンセルズ・アザー) | 2つ同時に出し、先に条件を満たした方だけ執行 | 6480で利確売り or 6440の逆指値で損切り。片方が約定すれば他方は取消 |
注文には有効期間もある。指示しなければ全注文は「当日限り」で、その日のうちに約定しなければ失効する。期間を延ばしたいときは次を使う。
- GTC(グッド・ティル・キャンセルド):約定するか取り消すまでずっと有効。逆指値を毎日出し直したくない人向け
- GTD(グッド・ティル・ディト):指定した日付まで有効。例:2008年3月14日まで6450で買い
完全な注文の作法。仕掛け注文を出すときは、必ず「イフダン」条件のあとに損切りの逆指値をセットで出す習慣をつける。損切りの逆指値を置かないトレードは絶対にしてはならない。
指値には慎重に。トレーダーにとって本当の最大リスクは、仕掛けで2〜3ポイント損することではなく、指値にこだわったせいで良いトレードそのものを逃すことだ。むしろスリッページ(滑り)が出るのは、自分が正しい側にいる良い兆候のことが多い。負けポジションに指値で粘るのもやめておく。
著者は自分はGTCを使わない、とも言う。たとえ水準が変わらなくても毎日注文を出し直す。それがリスク管理の一部で、ブローカーに注文を「見逃されない」ようにする、ちょっと余分だが賢明なひと手間だからだ。
注文の種類はトレーダーとブローカーの共通言語だが、新しいブローカーとは行き違いが起きうる。だから、どんな方法で出しても必ずブローカーから確認の通知を受け取り、注文が有効だと確かめる。著者はすべての注文をメールで送り、毎朝9時までに総数の確認メールを受け取ってからくつろぐ。約定すれば数量と価格の通知が来て、最後に手数料・証拠金・全ポジションをまとめた取引明細が届く。毎日終わりに自分のポジションを確かめておくのも大事だ(「持っていないはずのポジション」ほど心臓に悪いものはない)。
さらにトレードを「ビジネス」として扱うため、毎月1ページの月次報告をトレーディングパートナー向けに作る。誰かが見ていると思うと計画から外れにくくなり、規律と一貫性が保てる。報告には次を入れる。
- 資金限度の範囲内にあるリスク資産の限度
- 控えめな期待値
- 資金管理のルール
- システムストップ
- トレーディングの月次結果と銘柄別結果
- 口座残高
まとめ ― 6つの原則をつなぐ「金の糸」
これで成功するための普遍的な6つの原則がすべて出そろった。著者は「成功したトレーダーになる旅では、トレーディング(発注そのもの)が一番短い段階だと分かるだろう」と言う。前の5原則で土台を築けば発注は意外と簡単で、本当に難しいのは絶え間ない苦痛のコントロールのほうだ。
- 原則1:評価(自分を知る/自己鍛錬)
- 原則2:トレーディングスタイルを作る
- 原則3:トレードを行う市場を選ぶ
- 原則4:3本の柱 ― 資金管理・売買ルール・心理
- 原則5:(売買ルールの)検証と運用
- 原則6:トレーディングを始める
著者は正直でもある。多くの人は、準備に必要な作業のきつさに気づき、トレードがうまい話への近道でないと悟って、有利なうちにやめる。それは賢い選択で、苦痛のない生活を選んだだけだ。一方、不屈の精神を持つ人には、待ち受ける多くの仕事と苦しみへの準備をしてほしい、と説く。原則を口先だけで褒めるのではなく、受け入れて実行しなければ、トレーディングは確実に破たんする。
この章のまとめ。(1)始めて退屈に感じたら、それはプロになった合図。(2)毎日「売買ルール→資金管理①②③→心理」の順で日課をこなす。(3)発注前チェックリストと損切りの逆指値はセットで必須。(4)注文には多くの種類があるが、目的は儲けの最大化ではなくリスク管理。(5)月次報告でビジネスとして規律を保つ。原則は学ぶだけでなく、実行して初めて意味を持つ。
12一流トレーダー15人の「たった一言」第12章
著者ひとりの声に、本物の成功者たちの肉声を重ねてバランスをとる章
この章は今までと毛色が違う。著者ペンフォールド自身も「ここからがお楽しみだ」と書いている。これまでの内容は全部「著者ひとりの意見」だった。そこに、世界中の成功したトレーダー15人を呼んできて、それぞれに『成功したい人へ一言だけ助言するなら?』と同じ質問をぶつける。その生の答えを集めたのがこの章だ。
バランスをとる ―― なぜ他人の声を入れたのか
著者はこう打ち明ける。自分が書いてきた「普遍的な原則」は、自分のでこぼこ道の経験から身につけた、あくまで自分の目を通した考えにすぎない、と。だから一冊まるごと自分の声だけだと偏る。そこで他人の知恵を並べて釣り合いをとりたい、というのがこの章を入れた理由だ。
ここが核心。著者は「私の言うことを丸呑みするな。自分で調べて価値を判断しろ」と繰り返す。ただし一点だけ釘を刺す ―― 普遍的な原則に『意図的に逆らうな』。逆らえば最大の逆境に行く手を阻まれる、と。
登場する15人は実に多様だ。裁量派もメカニカル派(機械的にルール通り売買する人)も、株・先物・通貨・オプション・ETFを扱う人も、デイトレーダーも長期トレーダーもいる。地理もシンガポール、香港、イタリア、英国、米国、オーストラリアと世界中。共通点はただ一つ ―― 全員が世界金融危機を生き残った成功者だということ。
初心者がやりがちな勘違い。『この多様さ=勝てる戦略が無限にある』ではない。著者は『勝てる戦略が無限にあるとは信じるな。でも十分な選択肢はある。自分に合うものを見つけよ』と明言している。
マーケットの魔術師たちからの助言 ―― 15人の一言
以下が15人の助言だ。彼らの言葉は教科書の引用ではなく、容赦ない実戦から生まれたもの。著者は3本柱(資金管理・売買ルール・心理)で分類している。まずは資金管理と売買ルールに関わる助言から。
| トレーダー | 一言アドバイス | かみ砕くと |
|---|---|---|
| マイケル・クック | 小さくトレードしろ | ポジションを極端に大きく見積もるな。小さく張れば破産確率0%で始められ、学ぶ時間も稼げる |
| リー・ゲッテス | リスクに集中しろ | 利益は自分で動かせない。唯一コントロールできるのは『いくら損するか』。個々の取引では悲観的であれ |
| ダール・ウォン | 低リスクのセットアップを見極めろ | まずリスクの低い形を探し、利益が損の3倍見込めるとき(リスク・リワード1対3)だけ入る |
| アンドレア・アンガー | 自分の性格に合う戦略を選べ | 損切りが近いと耐えられる人はトレンドフォロー、勝率を欲しがる人はパターン認識のスイング |
| ケビン・デイビー | 単純な売買ルールを作れ | オッカムのかみそり。複雑な戦略はカーブフィッティングで過去にしか効かない。終値2つだけの戦略すらある |
| トム・デマーク | 多数派を避け、反転を予測しろ | 天井は『買いがなくなる』から、底は『売りがなくなる』から起きる。大衆と逆に動く逆張り・スイングを調べよ |
| リチャード・メルキ | 現実的な期待値+堅牢な資金管理+計画 | 裁量グローバルマクロでも核は資金管理。毎日の相場の雑音を無視できることが大切 |
| ジェフ・モーガン | うまく負けることに集中しろ | ブローカー時代、5年で何百人見て勝者はたった1人。勝ち始める前に、まず負けを止めよ |
| ブライアン・シャート | ソフトで売買ルールを検証して知れ | やみくもに張るな。実際にお金を使う前にバックテストで、上昇・下降・横ばいの全相場での勝率を知れ |
次に心理面の助言。お金の話より、自分の心をどう御すかが成否を分けるという点で一致している。
| トレーダー | 一言アドバイス | かみ砕くと |
|---|---|---|
| レイ・バロス | トレード前に『深い訓練』をしろ | 1934年の米陸軍パイロットの死亡率の例。試行錯誤の前にシミュレーターのような反復訓練で誤りから学べ |
| マーク・D・クック | 負けると思い、勝つためにトレードしろ | 『成功は失敗で敷き詰められた道』。聖杯ではなく『聖なる真実』に従う。負けを認め、利益を守ることが稼ぐより大切 |
| グレッグ・モリス | 規律、規律、何よりも規律 | 元トップガン。どんな良いモデルも、従う規律がなければ働かない。規律は持つか持たないかしかない |
| ニック・ラッジ | 忍耐強くあれ | 『大事なのはタイミングではなく時間』。相場は給料日のように毎週払ってはくれない。報いるまで待て |
| ダリル・ガッピー | 謙虚であれ | あなたは市場の参加者より賢くなれない。チャートが語るメッセージに従えば、市場が報いてくれる |
| ラリー・ウィリアムズ | コントロールしろ | 集中とは違う。資金管理も戦略も心理も、知っているだけでなく実際に当てはめ続けること。答えは質問から生まれる |
ジェフ・モーガンの最初の返事は強烈だった。『先物はゼロサム。私が儲けるには誰かが損する。なぜ他人を助ける?』 著者は失望しつつ、彼の本音 ―― 5年間で勝者は1人だけ、まず負けを止めよ ―― を引き出した。成功者は皆が表に出るわけではない。
多くのアドバイスに共通するもの ―― これが普遍的な原則の核心
15人はマーケットも時間枠も銘柄も技術もバラバラ。なのに彼らの助言は、ある共通の核に触れていた。小さく張る・リスクに集中・単純に・大衆と逆に・エッジを持つ・損失を受け入れる・規律・忍耐・謙虚・コントロール。これらはすべて『成功するための普遍的な原則』そのものだ。
最大の発見はこれ。どの助言も『仕掛けのテクニック』には一切触れなかった。デマークすら反転の予測は語っても、具体的な仕掛けの手法は語らなかった。成功者の関心は仕掛けではなく、原則の側にある。
著者がグーグル検索してみると(表12.3)、検索数2位は『仕掛け』。素人は完璧な仕掛けを探すことに膨大な時間を費やす。だが完璧な仕掛けなど存在しない。時間を割くべきは仕掛けではなく普遍的な原則だ。
分類すると興味深い偏りが出た。15人のうち、資金管理を勧めたのは2人だけ、売買ルールが7人、心理が6人。著者自身は『資金管理>売買ルール>心理』の順を信じているので、これは彼の考えとは食い違う。だが、それこそ他人の声を入れた意味だった、と著者は満足する。
この章のまとめ。(1)勝ち方は一つではない、自分に合う方法を見つけよ。(2)バラバラな成功者全員が同じ普遍的原則を厳守していた。(3)仕掛けのテクニック探しに溺れるな ―― 原則こそが勝者と敗者を分ける。
13最後に — 勝者と敗者を分けるたった一つのもの第13章
著者が全編の締めくくりに伝えたい、トレードで勝ち残るための核心
この章は本の締めくくりだ。著者ブレント・ペンフォールドが、今までの内容を全部ひっくるめて「結局のところ何が大事だったのか」を語りかける。新しい技術は出てこない。その代わり、トレードで勝ち残る人と消えていく人を分ける、たった一つの本質がはっきり示される。
トレーディングで勝者と敗者を分けるもの
まず著者は、今は個人トレーダーにとって「最高の時代であり、最悪の時代でもある」という。一見矛盾しているが、これがこの章の出発点になる。
なぜ最高か。マウスをクリックするだけで、何でも手に入る時代だからだ。手数料の安い証券会社、自動売買の仕組み、安価なリアルタイムのデータ、相場ソフト、指標、各種の理論、教材やコーチまで、選択肢が山ほどある。昔は機関投資家(プロの大きな運用組織)が圧倒的に有利だったが、今や個人にとってそのハンデはほとんどなくなった。
だが「最悪の時代」でもある。今この瞬間も、活発に取引している人の90%以上が負け続けている。著者がトレードを始めた1983年から、この割合はまったく変わっていない。道具がどれだけ便利になっても、勝てない人の割合は減っていないのだ。
なぜ道具がそろっているのに勝てないのか。著者の答えはこうだ。選択肢が多すぎて、人々は興奮し、気が散ってしまう。「簡単に儲かる」という宣伝に惹かれ、立ち止まって基礎を学ぶ前に、すぐ取引を始めたがる。多すぎる選択肢に混乱し、欲求不満になり、失敗してしまう。つまり最高の道具が、かえって人を本質から遠ざけている。
ここが核心。勝者と敗者を分けるのは、最新のツールや裏ワザではない。みんなが見失っている「普遍的な原則」に焦点を合わせて、地道に守れるかどうか。それだけだ。著者はこの本全体を通して、その原則に立ち返れと言い続けてきた。
では確実なことは何もないのか。著者は「相場は本質的に不規則で、最大の逆境が突然やってくる。確実性はほとんどない」と認める。しかし唯一確実に言えることがある、と続ける。
ここで本書のキーワードがまとめて出てくる。TESTの手順とは売買ルールがちゃんと機能するか検証する手続き。期待値がプラスとは長く続ければ収支がプラスに傾く見込みがあること。破産確率0%とは資金管理を整えて全資金を失う確率を理論上ゼロにした状態。この3つがそろって初めて、安心して始められる。
トレーディングは万能薬ではない — 「苦痛の管理」という本当の仕事
著者は読者に念を押す。トレーディングは魔法の薬でも、楽な休日でもない。むしろ想像を超える仕事が必要だ。皮肉なことに、待ちきれず本業を辞めて専業になる人がいるが、成功したトレーダーほど以前より忙しく、絶えず向上しようと懸命に働いている。
長く勝ち続けるために必要なのは、上手なトレーディングよりも『上手な苦痛の管理』だ。売買そのものはむしろやさしい。難しいのは、絶え間なくやってくる心の痛みをコントロールし続けることだ。
著者はトレーダーを苦しめる「痛み」を具体的に並べている。これらに耐えられるかどうかが闘いになる、という。
- 損を抱えて持ち続ける苦しみ
- 勝ちトレードを早く手仕舞いして利益を確定したいという強い誘惑に抵抗する苦しみ
- 稼げたかもしれないお金がまだテーブルの上にあると想像する苦しみ
- 次の大きな値動きをとらえようと相場に入れない(待たされる)苦しみ
- ドローダウン(資産が一時的に目減りする)局面の苦しみ
- 勝ちトレードがいつ来るか分からない不確実さの苦しみ
- ほかの皆が自分より上手に・楽にやっていると信じてしまう苦しみ
- 早く全部を手に入れたいと焦る苦しみ
- 調査と開発を続けても、なかなか利益の出る新しいアイデアにつながらない苦しみ
- 疲労の苦しみ/満足が永遠に手に入らない苦しみ/自分の優位性をもっと良くしようと探し続ける苦しみ
そして強い警告が来る。「自分が何か簡単なことをしていると気づいたら、用心しよう」。トレーディングで成功するのは、たいてい難しいほうの選択肢だ。
楽な選択肢にはいつも気を付けよ。それはたいてい間違った選択肢だ。チャートを調べ続けるのも、相場理論を研究するのも、戦略をコード化してバックテストするのも、TESTで検証するのも、破産確率を計算するのも、素早く損を切るのも、利益をじっくり伸ばすのも、新高値で買い新安値で売るのも、ぜんぶ難しい。難しいからこそ、それが正しい道なのだ。
著者からの最後のメッセージ
締めくくりに著者は、トレーディング人生を物語にたとえる。初めはお金を儲けることに熱心になり、途中で成功を手にしようと多くの冒険に乗り出し、そして終わりに——多くの人は期待に反して失敗を経験する。
だが「栄光ある少数」にとっては、その終わりこそが新しい物語の始まりになる。財政的な独立、誰にも責任を負わない自分のためのトレーディング。普遍的な原則を貫いた人だけが、その少数に加われると著者は信じている。
そして最後に、急がなくていいと繰り返す。トレーディングを急いで始める必要はない。時間をかけて、普遍的な原則を使いなさい、と。
著者からの最後の手順:(1)我慢する (2)単純・客観的・独立した売買ルールを考え出す (3)TESTの手順で期待値を検証する (4)逆マーチンゲール法の資金管理戦略と組み合わせる (5)すべて確認できて破産確率が0%になったら、そこで初めて仕掛ける——それより前は絶対にダメだ。
逆マーチンゲール法とは、勝って資金が増えたときに賭ける量を増やし、負けて減ったときには減らす資金管理の考え方。負けたら倍に増やす危険な「マーチンゲール法」とは逆で、本書が一貫して勧めてきたやり方だ。
この章のまとめ。勝者と敗者を分けるのは才能や道具ではなく、普遍的な原則を守り、心の痛みを管理し続けられるかどうか。楽に見える道は疑う。急がず、検証と資金管理で破産確率を0%にしてから初めて仕掛ける。そして『うまく負ける』ことを覚えた人が、最後に勝ち残る。
14付録:破産確率はこう計算する ― 狙うのは『0%』だけ付録 A・B・C
第4章の破産確率の種明かし。技術は読み飛ばしてOK、持ち帰るのは「0%以外は致命的」の一点
この本の最後にある「付録」では、第4章で出てきた『破産確率』(トレードを続けたとき、資金を一定割合まで溶かしてしまう確率)を、著者ペンフォールドがどうやって計算したのかを種明かしする。難しいプログラムの話も出てくるが、初心者が本当に持ち帰るべきは最後のひとつ。だから前半はサラッと、最後の『実践的な意味』をしっかり押さえよう。
付録A 破産確率のシミュレーター(どんな仕組みか)
付録Aは、著者が破産確率を計算するために作った『シミュレーター』(コンピューター上でトレードを何度も繰り返してみる実験道具)の説明だ。第4章に載っていた数字は、すべてこの道具から生まれた。著者は友人のトレーダー、ジェフ・モーガンの助けを借り、ナウザー・バルサラの著書『マネー・マネジメント・ストラテジーズ・フォー・フューチャーズ・トレーダーズ』のロジックを自分なりに解釈して、エクセルのVBA(エクセルを動かす簡易プログラム言語)で組んだ。
シミュレーターに入れる『変数』(設定する数字)は、あなたの売買ルールのカギとなる2つの特徴だ。すなわち勝率(勝てるトレードの割合)と、ペイオフレシオ(平均利益÷平均損失。1勝が1敗の何倍かを示す)。第4章と付録Cでは、勝率50%・ペイオフレシオ1からシミュレーションを始めている。
- 勝率: 例として50%。コイン投げと同じ確率
- ペイオフレシオ(平均利益÷平均損失): 例として1。勝ちも負けも同じ大きさ
- 口座の資金額: 著者は100ドルと入力。ただし破産確率を左右するのは勝率・ペイオフレシオ・資金管理戦略であって、口座金額そのものは結果に効かない
- 資金管理戦略: 『定率(口座の何%をリスクに置くか)』か『固定リスク額(資金を何ユニットに分けるか)』の2つから選ぶ
- 破産の定義: 口座が何%のドローダウン(直近の最高額からの目減り)に達したら破産とみなすか。第4章・付録Cでは50%のドローダウンを破産と定義
動かし方の中身はシンプルだ。乱数(サイコロのようにランダムな数)を振って1トレードごとに勝ち負けを決める。勝率が高いほど勝ちトレードが多く出るが、勝ち負けがどの順番で並ぶかはあくまで運任せ。1トレード終わるたびにドローダウンを測り、純資産曲線(資金の増減を描いた線)を1本ずつ伸ばしていく。
破産確率の公式はこうだ。破産確率 = 純資産の直近の最高値からの負けトレード数 ÷ 純資産の直近の最高値からのトレード総数。つまり『資金が一番増えた地点から、破産ラインに落ちるまでにどれだけ負けが込んだか』を見ている。最高値を更新するたびにカウントはリセットされる。
暴走を防ぐ歯止めもある。純資産が2億ドルに達するか、トレード数が1万回に達するまでに破産ラインへ落ちなければ、シミュレーターは『破産を免れた』と判断して止まる。本文の図A.1の例では、ドローダウンが50%に達した時点で停止し、破産確率を59%と計算した。
破産確率59%は『極めて高い』。著者は、こんな数字が出る売買ルールではトレードしないほうがよいと断言している。続ければほぼ確実に資金を吹き飛ばすからだ。なお図の自作シミュレーター表示は97%という値も示しており、いずれにせよ手を出してはいけない水準だ。
付録B 破産確率のシミュレーター(VBAのソースコード)
付録Bは、付録Aのシミュレーターの『中身そのもの』、つまりエクセルVBAのソースコード(プログラムの設計図)を丸ごと載せた部分だ。エクセルに新しいシート『RiskOfRuin』を作り、勝率・ペイオフレシオ・口座サイズなどを置くセルに名前を付け、乱数で純資産曲線を描き、最後にボタン一つで破産確率を計算する、という一連の手順とコードが書かれている。
著者の本音はこうだ。『VBAをよく知らないなら、自分で作ろうとしないほうがよい』。コードはVBAに慣れた人向けで、プログラミング初心者に必要な手取り足取りの説明までは入っていない。VBA入門講座を書くのは本書の範囲外、というわけだ。
初心者へ。ここは『作れなくても全く問題ない』パート。著者自身、『トレーディングに関心があるなら、私のシミュレーターを自由にコピーしてよい』と言っている(本ではindextrader.com.au経由で連絡すれば送ると案内)。大事なのはコードを書けることではなく、破産確率という考え方を知り、自分のルールで使うことだ。
付録C 破産確率のシミュレーション(結果の表)
付録Cは、ペイオフレシオの値を変えながら30回ずつシミュレーションを回した結果の表だ。ここから読み取れる結論ははっきりしている。ペイオフレシオが大きくなる(=勝ちが負けより大きい)ほど、破産する可能性は劇的に減る、ということだ。
| ペイオフレシオ | 30回の平均的な破産確率 | ざっくり言うと |
|---|---|---|
| 1(勝ち=負け) | おおむね60%超 | 半数以上の確率で破産。論外 |
| 2(勝ちが負けの2倍) | 20%前後 | まだ高い。続ければいつか飛ぶ |
| 3 | 30%前後とばらつくが急減 | 回によっては0%も多数 |
| 4以上 | ほぼ0% | 破産がほとんど起きなくなる |
表の見方の補足。同じ設定でも30回それぞれ結果が違うのは、勝ち負けの『並び順』が運で変わるからだ。ペイオフレシオ1の列はどの回も60%前後と高止まりするが、ペイオフレシオが上がるにつれて0%の回がずらりと並ぶようになる。OCRの数字には誤読が混じるが、傾向は明確だ。
ここが核心。勝率を上げるのは難しいが、ペイオフレシオ(利益を伸ばし損失を小さく抑える=損小利大)を高めることは、損切りと利を伸ばす設計で自分でコントロールできる。同じ勝率でも、ペイオフレシオを1から2、3へ上げるだけで破産確率は崖を転げ落ちるように下がる。
破産確率が教える実践的な意味
付録の締めくくりで、著者は最も大事な一文を残している。あなたの目標は、検証ずみの売買ルールに適切な資金管理戦略を組み合わせ、『統計的に0%の破産確率』を生み出すことだ、と。
初心者が誤解しがちな点。破産確率10%は『10回に1回しか破産しない、まあ大丈夫』ではない。トレードは何百回も繰り返すもの。0%でない限り、回数を重ねるうちにいつか破産が現実になる。『低ければOK』ではなく『0%以外は不合格』と覚えよう。
- 破産確率は3つの要素で決まる ── 勝率・ペイオフレシオ・資金管理戦略(口座金額そのものは無関係)
- ペイオフレシオを上げる(損小利大)と破産確率は大きく下がる
- 目標は『限りなく0%』ではなく『0%』。0%超はすべて致命的
- シミュレーターを自作できなくてよい。考え方を使えることが大事
- 新しいルールで本番に入る前に、破産確率の視点で『これは安全か』を必ず確かめる
この章のまとめ。付録は、第4章で示した破産確率の数字がどう作られたかの種明かしだった。技術的な中身(VBAコードや表)は読み飛ばしてかまわない。持ち帰るべきは1点 ── どんなに勝率が良さそうでも、破産確率が0%でなければそのルールでは戦わない。0%を生むカギは、検証ずみのルール+損小利大(高いペイオフレシオ)+適切な資金管理の組み合わせだ。
結論 — 勝者と敗者を分けるもの
- 勝者はまず「破産しないこと」を最優先にする。プラスの期待値を持つ単純な手法を、規律をもって淡々と繰り返すだけ。派手な必勝法は要らない。
- 資金管理(ポジションサイジング)で生き残り、複利で増やす。1回の損失は資金の1〜2%まで。手法探しの前に、まず損失管理を固める。
- 6つの原則は順番で効く。準備と自己啓発で土台を作り、自分のスタイルと戦う市場を決め、3本の柱で運用し、規律ある実行で続ける。
- 感情(希望・強欲・恐怖・苦痛)は消せない。だからルールで行動を縛る。検証で裏づけた仕組みに従い、淡々と続けた人だけが10%側に残る。